こうじ使う日本独自の「伝統的酒造り」ユネスコ評価…出遅れた焼酎の海外輸出「価値を説明しやすくなる」
日本酒や焼酎、泡盛などを造る技術「伝統的酒造り」が、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録される見通しになった。「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」の副会長で、麦焼酎で知られる酒造会社「天盃」の多田格社長(59)(福岡県筑前町)は、焼酎の国内市場が縮小傾向にある中、今回の認定が海外戦略の起爆剤となることに期待している。(井上裕介、写真は木佐貫冬星) 【写真】もろみタンクの前では甘い香りが漂う
「500年にわたり築いてきた、こうじを使う日本独自の製法が、歴史や文化も含めて国際的に認められた」。麦こうじに水と酵母を加え発酵させた甘い香りが漂う酒蔵で喜びを語った。
ユネスコの評価機関は登録を勧告した際、「酒造りが職人と地域住民を結び、環境の持続可能性に貢献している」ことや「酒が祭りや結婚式などの日本の行事に欠かせない役割を果たしている」ことなどが、無形文化遺産の登録基準を満たしているとした。
「個別の酒蔵や商品ではなく、こうじから酒を造るという昔から大事にしてきた製法、考え方が評価された。『日本の国酒です』と、胸を張って世界に打って出る際の心のよりどころとなります」と多田さんは力を込める。
「伝統的酒造り」は、カビの一種であるこうじ菌を米や麦など穀物に繁殖させた「こうじ」を使って発酵を促したり、風味を豊かにしたりする製法が、世界の酒造りでも特徴的だ。室町時代に原型が確立したとされ、杜氏や蔵人と呼ばれる職人が経験を基に、米の蒸し方、水分調整、発酵管理などの手作業を洗練させて、各地で多様な酒を生み出した。
天盃は1898年(明治31年)創業の老舗で、多田さんが家業に入ったのは24歳頃。大学では食品工学部で微生物学を専攻し、卒業後は東京の酒小売店に就職し、トラックで酒を配達するなど2年間修行した。2003年に社長に就任して、同時に味の最高責任者である杜氏にもなった。
「福岡の地で作る麦100%の意味とは何かを追いかけてきた。手作業が機械化されただけで、こうじから酒を作る基本概念や理屈は昔と変わっていない」と話す。