2025年の金融変革「7大予測」とは? NTTデータ イノベーション担当の場合
セキュリティトークンとステーブルコイン
ブロックチェーンを使った金融商品、ここでは特典付きデジタル社債を含むいわゆるセキュリティトークン(ST)およびステーブルコイン(SC)について触れておく(注6)。 STは不動産STが大きな伸びを示しておりこのながれば2025年も続くことになるだろう。併せて2024年に話題となったJR西日本の特典付きデジタル社債であるが、BaaSの話と同様、魅力的なリワードがあればマーケティングツールとして有効性高い、ということを示したといえるだろう。 経済的な効果はBaaSと近しいこともあり、BaaSとともに2025年も新しい案件が立ち上がることが期待される。ステーブルコインについては実証段階が続く可能性もあるが、たとえばProgmatが国際送金に向けた実証実験をはじめるなどよりビジネスとしてのベネフィットに訴求する検討が進んでいる認識であり、その一端が2025年には日の目をみることが期待される。
銀行の新規領域進出への可能性
最後に銀行の新しい事業領域の可能性についても触れておきたい。銀行のほとんどは上場企業である。これに加えてPBR(株価純資産倍率)の1倍超を期待されるというという話が株式市場の大きなテーマである。 銀行という業態は金利が上昇すると金利収入が増加することが期待され、金利環境も改善していく見込みのなかでは、収益性の改善が期待され株価へのプラスとなることが想定される。一方で、現時点でPBRが1倍超もしくはほぼ1倍近くとなっている銀行はほんのわずかであり、大多数の銀行にとってはかなりのハードルがあるのが現状である。 こうした環境下では中長期的に非金利収入のウェイトを増やしていくというこれまでの本業とは別の収益源を確保する動きをより進ませざる得ないのではないかと考える。 地域商社や人材紹介などの銀行としての新しい取り組みはこれまでもなされてきたが、より新しい取り組みを加速させることが必要になるだろう。銀行のケイパビリティから遠い領域はシナジーも出しづらいことから、幅出しの領域はよくよく考える必要がある。ここでは、テクノロジーの視点で銀行が幅出しに向いていそうな領域についてコメントしたい。 銀行は過去から銀行業の本業のために膨大な個人情報を保持し利用している。この個人情報の取り扱いのケイパビリティをうまく活用できないか、というような切り口で考えてみるとVC(Verifiable Credentials)というキーワードが思い浮かぶ。 VCは日本語にすると検証可能な資格情報という意味であり、資格情報を信頼できる機関によって検証されていることを証明するデジタル証明書のことである。VCの利用局面としては、たとえば酒、たばこなど成人向けの商品を販売する際のやりとりがあげられる。成人向けの商品を販売する場合、小売店では購入者が未成年である可能性について疑念を持った場合、免許書などの本人確認書類を使って年齢確認を行っている。 ただ、本来であれば20歳以上であることが確認できさえすれば免許書に記載の個人情報をいちいち見る必要もないし、購入者からすると見せる必要もない。この場合VCを使えば、信頼できる機関にって20歳以上であるという資格が証明されているので、小売店はVCを使って余計な個人情報を見ることなく成人向けの商品を販売することが可能となる。 銀行はVCの構成要件である信頼できる機関の条件は十分満たし得る存在であり、本業の中で本人確認書類を取り扱っていることから、銀行の持っているケイパビリティを活かすことは十分可能な領域と考える。 もちろんマネタイズをどうするかは併せて踏み込んだ検討が必要になるが、あたらしい事業領域の候補にはなりえるだろう。これ以外にも個人情報の取り扱いという点ではKYCを外販するといったアプローチも考えうる。VCに限らず事業領域の幅出しに関しては2025年も新たな取り組みが発表されていくことになると考えているし、実際にそうなってほしいと願っている。 注1:「センシングファイナンス"!」の可能性 | NTTデータ | DATA INSIGHT | NTTデータ - NTT DATA 注2:金融庁も始動「耐量子計算機暗号」、金融機関が2030年までに対処すべきことは? |FinTech Journal 注3:「預金取扱金融機関の耐量子計算機暗号への対応に関する検討会」報告書について:金融庁 注4:「主要行等向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)及び「金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドライン」(案)に対するパブリック・コメントの結果等の公表について:金融庁 注5:JR東日本とJR西日本が使いこなす「金融機能」、BaaSとデジタル証券を占う事例とは? |FinTech Journal 注6:暗号資産とデジタル証券が激変、日銀注目「預金トークン」と「ブラックロック事例」 |FinTech Journal 本稿に記載の見解は執筆者の個人的な見解であり、弊社を代表する意見ではありません。
執筆:NTTデータ 金融イノベーション本部ビジネスデザイン室 統括部長 山本 英生