誰も住んでいないマンションに何度も「置き配」が届く…デリバリー専門店の謎を描いたミステリー(レビュー)
日本推理作家協会賞受賞作を含む短編集『#真相をお話しします』で、現代社会ならではの事象を元に、ま新しい謎をこしらえてみせた結城真一郎。『難問の多い料理店』(集英社)では、客席を持たないフードデリバリー専門店、いわゆるゴーストレストランに目を付けた。探偵役は、六本木の雑居ビル内にあるゴーストレストランのシェフ。本人はキッチンから動けないものの、フードを客へ届けるためにこの店に出入りする配達員が助手役となり、情報収集に立ち回る。これぞ、令和の安楽椅子探偵だ。 全六編、不可思議な=魅力的な謎が目白押しだが、この舞台ならではの謎を擁する話に格別惹きつけられた。例えば第四編「異常値レベルの具だくさんユッケジャンスープ事件」では、一〇回以上続けて同じ配達員がやってきたという謎を皮切りに、真相究明のしっぽに至るまでフードデリバリーの要素ががっつり関わる。第五編「悪霊退散手羽元サムゲタン風スープ事件」は、誰も住んでいないマンションの一室に、立て続けに置き配が届いた謎を巡るミステリー。しかも、話はこれでは終わらなくて……。各話ごとに異なる配達員に、この仕事に就くこととなったそれぞれの経緯を語らせたことで、本作は小説として一回り大きく豊かなものとなった。第三編「ままならぬ世のオニオントマトスープ事件」に登場する小学三年生の息子を持つシングルマザーの配達員の話は、きっとどこかの街ですれ違っているけれどもその人生を知ることができなかった隣人の物語として、忘れ難い印象を残す。
エンタメ小説界の新鋭・森バジルの『なんで死体がスタジオに!?』(文藝春秋)は、地上波ゴールデンで生放送されるトークバラエティ番組のスタジオが舞台。タレントたちが芸能ゴシップを披露し合いながら、嘘をついている人間を見つけ出す、「ゴシップ人狼」というゲスい企画だ。炎上大歓迎、視聴率獲得はもちろんSNSの口コミ上位を目指す、という今っぽい番組作りだ。ところが本番直前、統括プロデュサーを務める幸良涙花は、スタジオの端っこで出演者の一人の死体を発見する。死体の上に置かれた新台本には、脅迫文と共に「放送を止めないこと!」という犯人の要求が記されていた。 右往左往しながらスタッフやキャストに指示を出す幸良は、(激烈なドジキャラでありつつ)テレビ愛に満ちた人物だ。〈初めてこの業界に入ってスタジオ収録に立ち会ったとき、いつも見ていたテレビのセットがこんな風に張りぼてで作られているということに衝撃を受けたのを思い出した〉。その「張りぼて」をリアルなものとして見せることがテレビマンの仕事であり、その職務を遂行することこそが犯人を炙り出すことに繋がる。特殊な職業ならではのプロフェッショナリズムが、ミステリーの構造と有機的に結び付く。令和のお仕事ミステリー、堪能しました。 [レビュアー]吉田大助(ライター) 1977年、埼玉県生まれ。「小説新潮」「野性時代」「STORY BOX」「ダ・ヴィンチ」「CREA」「週刊SPA!」など、雑誌メディアを中心に、書評や作家インタビュー、対談構成等を行う。森見氏の新刊インタビューを担当したことも多数。構成を務めた本に、指原莉乃『逆転力』などがある。 協力:新潮社 新潮社 小説新潮 Book Bang編集部 新潮社
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