驚異のスプリント力で横浜FMに一矢報いたFW奥山洋平、2トップ起用で活きた町田での経験と山口への感謝「恩を返すにはJ1に昇格すること」
[9.25 天皇杯準々決勝 横浜FM 5-1 山口 ニッパツ] J1強豪相手に一時同点に追いつくゴールを決めたのは、レノファ山口FCに今季加入してきたばかりの快速アタッカーだった。0-1で迎えた前半23分、FW奥山洋平はDF平瀬大からのロングフィードに反応し、ペナルティエリア右に向かって驚異のスプリント。最後は目測を誤ったGK飯倉大樹をかわしてボールをさらい、無人のゴールまで持ち込んだ。 【写真】「スタイル抜群」「目のやり場に困る」“勝利の女神”のアウェー遠征に反響 スピードを活かした背後への抜け出しは狙っていた得点パターン。「裏抜けは自分の武器だと思うし、そこを狙い続けて、結果として一つ表れたのはよかった」。そんな自慢の武器は攻撃だけでなく、守備のプレッシングでも存在感を発揮。「上手い相手なので一度追っているだけじゃハマらない。二度追い、三度追いをすることで自分たちの流れを作っていきたいと思っていた」というプランが見事に機能した。 また前半35分には、共に2トップを組んでいた18歳のFW末永透瑛からの落としに反応し、クロスバー直撃のボレーシュートも披露。後半もチームが押し込まれて苦しい展開を強いられる中、一気に局面を打開するカウンター攻撃を何度も先導し、天皇杯準々決勝という舞台でこの一戦のキーマンといえるインパクトを残した。 奥山によると、2トップでのこの日の活躍は昨季加入し、今年の夏まで過ごしたFC町田ゼルビアでの取り組みが活きていたという。プロ入り前の阪南大時代は右ウイングで数々のアシストを記録し、プロ入り後のいわてグルージャ盛岡ではシャドーを担っていたが、町田ではFWの動きを学習。「町田でいろんな方に教えてもらいながら経験してきた」と感謝を口にする。 「(町田では)前からのプレスは連動してやることを勉強したし、(現大分の)高橋大悟選手と練習試合で組むことも多かったので、お互いの動きを見ながら連動して裏に抜け出したり、あとはサイドじゃなくゴールに向かって抜け出すことを意識していた」 奥山自身、この日は後半にも数多くのチャンスが訪れたことで「決まらないと意味がない。質を上げていかないといけないと思った」と決定力には反省を口にし、「もっと自分が違いを出せたらこの結果も変わっていた。もっとレベルアップできるように頑張っていきたい」と成長の必要性を痛感していたが、リーグ戦ではジョーカー起用を続けていた志垣良監督も「思った以上によくやってくれた」と及第点のパフォーマンスだった。 1999年生まれで岡山県出身の奥山は中体連の操南中、高体連の西大寺高出身。同高は近年、映画『蜜蜂と遠雷』やドラマ『silent』に出演し、大ブレイク中の俳優・鈴鹿央士の出身校として知られ、実は奥山とも同い年で「同じ学年で面識はある」という関係性だが、サッカー部は強豪校ではなく、3年時の選手権予選は2-10の大差で8強敗退にとどまる“無名”の存在だった。 ただ、そこから奥山は関西強豪の阪南大に進学し、スピードとドリブルを活かして頭角を表すと、4年時の全国大学選手権(インカレ)準優勝後、トライアウト経由で当時J2だった岩手の内定を獲得。「その場所で自分ができることを最大限やり続けること。目の前のことを一つずつやるという気持ちをずっと持っている」という雑草的キャリアでここまで上り詰めてきた過去を持つ。 その先で掴んだ天皇杯準々決勝での値千金弾。「経験をするだけじゃ意味がない。今日も勝ちたかった。勝たないとチームとしても個人としても価値は上がらない。もっとチームを勝利に導ける選手になりたい。マリノスと本気の戦いができる舞台に立てたのはすごく嬉しかったけど、それだけで満足していちゃダメだと思う。まだまだやれることはたくさんある」。そんな新たな悔しさが芽生えた契機としても、貴重な舞台になったはずだ。 もっとも、選手キャリアはここからが本番。プロ2年目から過ごした町田では結果的にJ1初挑戦を果たしたものの、出場機会は昨季の天皇杯1試合のみ。期限付き移籍で自身にチャンスを与えてくれた山口のため、J2リーグ戦でも結果を残していく構えだ。 山口は現在4連敗中とJ2リーグで苦しんでいるが、プレーオフ圏内と勝ち点2差の9位。巻き返すチャンスは大いにある。「この夏の状況で獲ってくれたレノファ山口FCに本当に感謝しかない。その恩を返すにはチームとしてJ1に昇格することだと思う。残りの試合を自分の出せる全力を出して、結果を出して、チームに貢献したい」。まずはレギュラーシーズンの残り6試合で、結果を積み重ねていくつもりだ。