#5 「まるでフランス映画のような…」警察庁長官を撃った男を追え 空前絶後の巨大捜査本部があぶり出した“175センチくらいの男”
30代から40代でがっちりタイプ
春田は身長が160センチ余りと小柄だ。それを見て古川代理は身長170センチある連れの滝田を指さして、「彼が170センチくらいありますが、彼くらいタッパがありましたか?」と聞いた。 すると春田は「なんだか、見上げた感じがしたので、もう少し高かったような気がします」と答える。 179センチある古川代理が滝田の代わりに立ってみた。すると春田は「そうですね」と答えた。このやり取りから犯人の推定身長の上限が180センチとなった。 この年の10月、再び聴取を受けた春田は、「175センチ前後だったと思う」と目撃証言を修正している。 また春田は男とすれ違った際、「雨の滴を右手で振り払った仕草から私より若い感じで30代から40代に見えました」とも話す。 男は黒縁や茶縁ではなく、縁なし眼鏡をかけ、体格は中肉で肩が張っているがっちりタイプ。濃紺のメトロ帽に濃紺のレインコート、黒のかまぼこ型のスポーツバッグを持っていたという。 この情報はその日の捜査会議ですぐに報告された。 捜査会議を実質取り仕切るひな壇に座る理事官は、「有力な目撃情報である。他に目撃情報について報告したい者はいるか」と叫んだ。 別の捜査員が手を挙げる。 「地の2!」 司会者が怒鳴って指名した。「地の2班」にいるこの捜査員は、逃走する犯人を遠くから目撃した住人から話を聞いていた。
目撃情報B 犯行の瞬間を見た唯一の人物
「地の2、捜査第一課の高島警部補(仮名)です。アクロシティBポートでは、ベランダから下をのぞいて犯人らしき男を目撃した住人が複数おりました。 中でもBポート3階に住む篠田光子(仮名・当時51歳)は、Fポート南東角の壁から男が銃撃する様子そのものを目撃しています。 篠田さんは午前8時15分からNHKの朝の連続テレビドラマ「春よ来い」を視聴した後、午前8時30分過ぎに、朝食の準備をしようと北側にあるベランダに向かい、ベランダに保管してあった長ネギを取ろうとベランダの扉を開けようとしたところ、外からパーンという音がしたということです。 篠田さんが自宅ベランダからおよそ80メートル先のFポートの方向を見たところ、Fポートの南東の隅に、黒っぽい服装の男がEポートの方向を向いたまま手を伸ばして、砲の長い拳銃を構えているところだったとのことです」 この事件で犯行の様子を直視した唯一と言っていい目撃証言だった。 篠田は次の様に証言している。