#5 「まるでフランス映画のような…」警察庁長官を撃った男を追え 空前絶後の巨大捜査本部があぶり出した“175センチくらいの男”
目撃情報C 175センチくらいの男
また数日後の夕方の捜査会議では、Bポート担当の「地の2(※地取り2班)」の捜査員から報告があった。 「犯行当日の事件直前、午前8時25分ごろと推定されますが、Bポートの住人が出勤のためEポートとFポートの間を通り過ぎたところ、飾り窓越しに黒っぽいコートで帽子を被った男が立っていた。 何をしているのかと思いながら男から2~3メートルの距離で通り過ぎたら、身長は自分と同じ175センチくらいで体形はふつうの体格だったと証言しています」 この目撃情報は前述のジュエリー会社常務の春田の目撃情報の数分前のものだった。 例のひな壇の理事官は、「175センチという情報は、銃撃の際に犯人が立っていた壁の硝煙反応からの推定値、ジュエリー会社役員・春田氏の証言と一致する。犯人の推定身長は170センチから180センチで間違いないな」と叫んだ。 こうした情報から國松長官を銃撃した男の身長は、170センチから180センチと固まった。
目撃情報D 猛スピードで走り去る自転車の男
この事件の目撃者は大人ばかりではなかった。 事件から数日経った4月初旬、特別捜査本部に主婦から1本の電話が入ってくる。 「うちの子が事件発生直後におかしな自転車を見たみたいなんです」という。 主婦の自宅は現場から西に300メートルの住宅街にある。 長官宅があるアクロシティの外周部ということで、「地の3」の捜査員が直ちに駆け付けた。 主婦は「うちの子は、毎朝フジテレビのポンキッキーズを観ているんですけど、ポンキッキーズが終わってすぐなので8時半過ぎかしら、外で『キーキー』という自転車のブレーキの音がするものだから窓から外を覗いたそうです。すると自転車に乗った黒い帽子にマスク姿の男が駐車場を横切って西に猛スピードで走り去って行くのを見たんだそうです」と話す。 この証言により、自転車の男がアクロシティを西に出てからどこへ行ったのか逃走経路が繋がった。 子供が耳にした「キーキー」という音は急ブレーキの音とみられ、猛スピードで走ってきた自転車はこの家の脇で急ブレーキをかけ駐車場に侵入し、敷地を斜めに横断する形で走り去っていた。 犯人の逃走経路の方向性が定まって行った。 【秘録】警察庁長官銃撃事件6に続く 【編集部注】 1995年3月一連のオウム事件の渦中で起きた警察庁長官銃撃事件は、実行犯が分からないまま2010年に時効を迎えた。 警視庁はその際異例の記者会見を行い「犯行はオウム真理教の信者による組織的なテロリズムである」との所見を示し、これに対しオウムの後継団体は名誉毀損で訴訟を起こした。 東京地裁は警視庁の発表について「無罪推定の原則に反し、我が国の刑事司法制度の信頼を根底から揺るがす」として原告勝訴の判決を下した。 最終的に2014年最高裁で東京都から団体への100万円の支払いを命じる判決が確定している。
上法玄