甲状腺疾患「診断」主題のセミナー、隈病院が4年ぶり開催
甲状腺疾患を専門とする隈病院(神戸市)はこのほど、新型コロナウイルス感染症のまん延で中断していた「神戸甲状腺診断セミナー」を4年ぶりに開催した。甲状腺診療発展への貢献を目指し、病理医、細胞検査士、内分泌内科医、甲状腺外科医、耳鼻咽喉科医を対象に「診断」を主題とした情報発信を目的に行われ、今回が15回目。2日にわたるセミナーのうち、1日目の「甲状腺診療における新展開・新分類・新報告様式」をテーマとした講演から4演題の概要を紹介する。
◇欧米における甲状腺診療の現状
講演のトップを切って、赤水尚史・隈病院院長が「欧米における甲状腺診療の現状」として、バセドウ病の治療選択に関する日米欧比較と、甲状腺眼症治療法の現状について解説した。 バセドウ病は、1988年時点で日本の治療選択は抗甲状腺薬88%/放射性ヨウ素11%/外科的手術1%。欧州では同じ順に74%/24%/2%。これに対して米国では抗甲状腺薬は30%にとどまり、反対に放射性ヨウ素が69%で外科的手術は1%となっていた。 2011年の調査では、日本を含むアジアオセアニアは抗甲状腺薬71%でやや減少した一方、放射線ヨウ素が以前より使われるようになり29%、外科的手術はほぼ0となった。欧州では抗甲状腺薬がさらに増えて86%、放射性ヨウ素は減少して13%、外科的手術はほぼ変わらず1%だった。米国では依然として治療の第一選択は放射性ヨウ素で59%、抗甲状腺薬が40%に増えた。 甲状腺肥大の程度や患者の年齢によって治療選択の割合は変化するが、米国では放射線ヨウ素を使用する割合が日欧よりも高い傾向があると紹介した。 甲状腺眼症(中等症~重症)の治療に関して「副作用や侵襲が最小限か許容可能で、優れた効果を示す療法に対するアンメット・メディカル・ニーズがある」と指摘。発症機序が解明され、免疫や受容体に関係する分子に介入することで治療ができるのではないかとの発想から、B細胞、T細胞、サイトカインなどを標的とする治療法が開発されて臨床研究が進んでいる。特に「インスリン様成長因子1受容体(IGF-1R)」を阻害する新薬テプロツムマブ(Teprotumumab)は、米国で2020年から臨床応用され、日本でも臨床試験がほぼ終わり臨床的に意義のある結果が得られたことから、現在薬事申請がなされていると説明した。