甲状腺疾患「診断」主題のセミナー、隈病院が4年ぶり開催
◇取扱い規約第9版の主な変更点
2023年秋に改訂された「甲状腺癌取扱い規約第9版(日本内分泌外科学会・日本甲状腺病理学会編)」の変更点などについて、臨床面から隈病院の伊藤康弘・外科顧問が、病理面から廣川満良・病理診断科科長がそれぞれ解説した。 臨床面では、術前、術中、病理組織所見の各TNM分類*のうち、術中所見を重視して改定された。特に今回は主としてEx(腺外浸潤の程度)とN(転移リンパ節のサイズ)について大きく変更された。甲状腺は特殊で、特に病理組織所見ではっきりとした浸潤の証拠がなければExがネガティブになってしまう。術中所見を重視しているので運用には注意が必要だと伊藤氏は指摘した。 * TNM分類:がんがどれくらい進んだものかでがんを分類する方法。Tは原発のがんの広がり、Nはがん細胞のリンパ節への転移の有無と広がり、Mは原発から離れた臓器への遠隔転移を示す。 病理面では、主な変更点として以下の点が挙げられた。 ・枠組みの変更 ・文言の改訂・疾患概念の変遷 ・低リスク腫瘍・高異型度腫瘍を採用 ・組織発生不明の腫瘍を設定 乳頭癌の亜型から篩状(ふるいじょう)モルラがん 好酸球増多を伴う硬化性粘表皮がん ・甲状腺芽腫の登場 ・遺伝子検査・遺伝子変異に関する記載の拡充 ・報告書様式の改訂 このうち、正式に採用された「低リスク腫瘍」のカテゴリーには、「乳頭癌様核所見を伴う浸潤性濾胞(ろほう)型腫瘍(NIFTP)」と「悪性度不明な腫瘍(UMP)」という被膜浸潤・血管浸潤が疑わしいもの、「硝子化索状腫瘍(HTT)」の3つが分類されると解説。 また、高分化がんの中でも悪性度の強いものを新たに抜き出して「高異型度腫瘍」として分類したこと、これまで乳頭がんに分類されていながら特殊な遺伝子変異を持ち免疫のタイプが異なるものを「篩状モルラがん」とし、粘表皮がんに特有の遺伝子変異が見られない好酸球増多を伴う硬化性粘表皮がんとともに、組織発生不明な甲状腺がんとして独立させたこと、これまでの好酸性濾胞腺腫・濾胞がんが「膨大細胞腺腫」「膨大細胞がん」という名称になったことなどを紹介した。