甲状腺疾患「診断」主題のセミナー、隈病院が4年ぶり開催
病理面では、主な変更点として以下の点が挙げられた。 ・枠組みの変更 ・文言の改訂・疾患概念の変遷 ・低リスク腫瘍・高異型度腫瘍を採用 ・組織発生不明の腫瘍を設定 乳頭癌の亜型から篩状(ふるいじょう)モルラがん 好酸球増多を伴う硬化性粘表皮がん ・甲状腺芽腫の登場 ・遺伝子検査・遺伝子変異に関する記載の拡充 ・報告書様式の改訂 このうち、正式に採用された「低リスク腫瘍」のカテゴリーには、「乳頭癌様核所見を伴う浸潤性濾胞(ろほう)型腫瘍(NIFTP)」と「悪性度不明な腫瘍(UMP)」という被膜浸潤・血管浸潤が疑わしいもの、「硝子化索状腫瘍(HTT)」の3つが分類されると解説。 また、高分化がんの中でも悪性度の強いものを新たに抜き出して「高異型度腫瘍」として分類したこと、これまで乳頭がんに分類されていながら特殊な遺伝子変異を持ち免疫のタイプが異なるものを「篩状モルラがん」とし、粘表皮がんに特有の遺伝子変異が見られない好酸球増多を伴う硬化性粘表皮がんとともに、組織発生不明な甲状腺がんとして独立させたこと、これまでの好酸性濾胞腺腫・濾胞がんが「膨大細胞腺腫」「膨大細胞がん」という名称になったことなどを紹介した。
◇甲状腺腫瘍とゲノム異常
講演の最後に、がん研有明病院細胞診断部の千葉知宏部長が「甲状腺腫瘍とゲノム異常」の演題で、甲状腺腫瘍におけるゲノム異常や個別化医療などについて話した。 日常的に遺伝学的検査が実施されるようになり、臨床医も遺伝子・ゲノムの知識が要求されるようになってきた。近年の研究で、甲状腺がんは単一のドライバー遺伝子変異によって生じ、その種類によってがんの形がある程度規定されていることが分かってきた。高分化な甲状腺癌である乳頭がんでは、BRAF遺伝子変異が、濾胞癌ではRAS遺伝子がドライバーになる症例が多い。甲状腺がんは数あるがんの中で「遺伝子変異が少ないトップ3」に入る。がん細胞のゲノムに生じる変異はその要因によって異なったパターンを示す。甲状腺がんにおいて生じる変異の原因については、大部分が分かっていないものの、シグネチャー解析(変異パターン)から放射線曝露(ばくろ)が多い人ほど転座の頻度が多くなることなどが明らかになってきた。遺伝子変異などゲノム異常と甲状がんの関わりについて基礎から解説した。 また、従来の「One-Fits-All-Treatment(万人に効く治療法)」から個別化医療(それぞれに合った薬を投与)へと考え方が変わってきている。ここで重要なのは、 1.相手の弱点(ドライバー変異)が分かっているか 2.弱点を攻撃する“武器”があるか ――の2点で、両方がなければ個別化医療は成立しない。 最後に ・遺伝子までの理解が必要になってきた ・甲状腺がんおける遺伝子変異は単純 ・がんの分類は遺伝子異常に基づいたものになる ・個別化医療が実現しつつある――少しずつ効果を示す治療薬が開発されてきており、近い将来もっとよいものが出てくると信じている ――とまとめた。
メディカルノート