BtoBにかじを切ったNECが、デザインを経営の中枢に据えた理由
● デザイン機能を企業経営の中枢に据えるための体制づくり デザインを全社機能にすることには成功した。しかし、それが組織改革のゴールではなかった。デザインを企業価値を高めるためのエンジンにするには、デザイン機能を企業経営の中枢に据える必要があった。具体的には、経営会議にデザイン部門のメンバーが参画するということである。全社のブランド戦略、およびコミュニケーション戦略を立案すること。ブランドにデザインの力を活用し、全てのステークホルダーに最適なコミュニケーションを図ること。そういった作業に経営陣と共に取り組んでいく体制をつくらなければならないと考えた私は、経営企画部門の管轄下に、「戦略」「戦術」「表現」を担う3部門を設置した。 戦略の役割は企業ブランドの方向性を「定める」こと、戦術の役割はそこで定まった方向性をさまざまな人に「届ける」こと、そして表現の役割はブランドの具体的なスタイルを「創る」ことであるとする。そして、その三つの活動の全体を「ブランディング&メッセージング機能」とし、私が3部門の責任者となる――。 その新しい組織の形ができたことによって、一連の組織改革はおおむね完了した。グループ内のデザイン機能を統合し、それを全社機能にする。そしてデザインを経営の中枢機能とするという変革に要した時間は、3年弱ほどである。グループ企業含め従業員10万人以上を擁するNECのような巨大企業において、このような改革を短期間で進められた要因について、私はこれまで多くの方々から尋ねられてきた。それについては、この連載の中であらためて掘り下げることにしたい。 こうして、デザインの役割はNECの会社経営の中枢に位置付けられた。全社的なデザインの機能である「ブランディング&メッセージング」を担う3部門の責任者は私である。だから、その仕事に対してChief Design Officerという役職名が付くのは自然な流れだったといえるかもしれない。23年、私はNEC初のCDOとなった。 デザインの力によって企業価値を高めるのがCDOの役割であり、その具体的な「像」を明らかにしていくことがこの連載の主旨である。さまざまな変革の結果としてCDOとなった私のケースは、あるべきCDO像を考える上で一つの材料になり得るのではないか。 次回以降、こうした私の経験を基に、CDOに求められる資質について深く掘り下げていきたいと思う。 (第3回に続く)
勝沼潤