漁師が全力で「働き方改革」をしたら…収入が増えて勤務時間が半減した 30代の夫妻が見いだした、環境に優しくて持続可能な漁業
9月21日午前5時、岡山県玉野市の富永邦彦さん(36)は、港に泊めた自分の船「邦美丸(くにみまる)」に乗り込んだ。船名は、自分と妻美保さん(36)の名前から一字ずつ取った。 漁網リサイクル、文具に再利用も 繊維大手、海洋ごみ削減
日の出前の暗闇に包まれた穏やかな瀬戸内海。小豆島方面へ船で15分ほど進んだところで、底引き網漁を始めた。およそ1時間後に網を引き上げると、マダイ6匹とイカ数杯がかかっていた。邦彦さんはすぐにマダイの神経締めに取りかかる。鮮度を保つ上で重要な作業だが、船上でこなす漁師は多くない。大量にかかったら、一匹ずつ丁寧に処理する余裕はないからだ。一方、富永さんは大量には取らない。今日水揚げする量は、出港前から決めている。お客さんから注文を受けた分だけだ。 富永さん夫妻が実践しているのは「完全受注漁」。長時間労働を打開しようと始めたが、操業時間を半分以下に短縮できただけでなく、収入も増えた。水産資源や環境の保護にもつながる。試行錯誤の末にたどり着いた「持続可能な漁業の形」。取り組みに密着すると、驚きの未来が垣間見えた。(共同通信=我妻美侑) ▽完全受注漁とは この日の注文は、魚種お任せ1・5キロセットと3キロセットなど。予約はECサイトやメールで入っていた。
完全受注漁の鉄則は、どんなに多く取れても受注分以外は海に返すこと。水揚げする魚の量が少ない分、余裕を持って神経締めなどのプラスアルファの作業ができる。品質とともに客の満足度も上がり、付加価値として値段に上乗せできる要因にもなっているという。 この日の漁は順調かと思われた矢先、邦彦さんが船上でつぶやいた。「今日は期待できないかも」。4回網を下ろしたが、2回目以降はさっぱり。揚がったのは大量のクラゲとごみばかりだった。2週間ごとに変わる潮目が悪かったようだ。これでは受注量に満たない。しかし、邦彦さんの顔に焦りの色はない。その理由は漁港に戻って分かった。 「いやぁ、ボウズでした」 既に帰港していた先輩漁師に伝えたところ、クロダイを分けてくれるという。どういうことかと不思議に思ったが、「自分たちの活動を理解してくれて、協力してもらえるようになった」と邦彦さんは言う。仕組みを聞いて納得した。