漁師が全力で「働き方改革」をしたら…収入が増えて勤務時間が半減した 30代の夫妻が見いだした、環境に優しくて持続可能な漁業
勝川准教授はこう語る。「何より大事なのは、日本周辺の水産資源を持続可能にすること。漁業が衰退し、魚もあまりいなくなった中で、漁獲規制で量をコントロールし資源を回復しなければならない。漁業者の経営を成り立たせることも重要で、量ではなく、価値をどう高めるかを考えていくべきだ。その意味で、受注漁は選択肢の一つになり得るかもしれない」 ▽さらなる改革 邦彦さんと話して感じるのは、先輩漁師たちへの「リスペクト」だ。 「戦後の食糧難で『皆がおなかいっぱいになれるように』と願った時代に、先輩方が大量に取れる技術を確立してくれたおかげで今がある。だから資源量の減少を『乱獲したからだ』と責めるのは、きっと違う。今自分たちにできるのは、恩返しとして、そして次の世代に向け、知恵を絞って限りある資源を守り、稼げる産業にすることだ」 受注漁に地産地消をミックスさせる取り組みにも挑戦している。これまでのネット取引では遠方からの注文も多く、長距離輸送が生じる。これでは環境負荷が高く「持続可能ではない」と考え、地元飲食店から直接受注するルートも作った。たくさん取れて高値が付かないクロダイに着目し、これを市場より少しだけ高く買ってもらう試みだ。量が多いので少しの単価上乗せで収入の安定につながる。フレンチ店やラーメン屋が考案した新メニューにも期待が膨らむ。
漁の現場を案内する「観光漁船」も始めた。命をもらい生産者に感謝する「いただきます」の意味を伝え、資源減少の一因である「安定供給」の考え方を問い直したいという。漁師を志す人が参入する取っかかり、引退漁師のアルバイト先にもなればと思っている。 「これがうまく回れば、岡山から、地方から漁業を良い方向に進められる」。夫妻はそう確信している。