伝統行事でも「許されない行為はある」約700年前からの神事に迫る刑事処罰の可能性【弁護士解説】
刑事処罰の可能性も
そうした中で明らかになった、同神事の動物愛護法違反容疑での書類送検。犬猫を心から愛し、「もふもふ弁護士」の愛称で YouTubeで法律解説をしており 、動物愛護法にも詳しい荒木謙人弁護士に、今回の動きについて解説してもらった。 ――今回の「上げ馬神事」は、動物愛護法に規定されているどのような行為について、書類送検されているのでしょうか。 荒木弁護士:動物愛護法44条2項において、「愛護動物に対し、みだりに、その身体に外傷が生ずるおそれのある暴行を加え、又はそのおそれのある行為をさせること」を行うと、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金の刑罰が科されると規定されています。 報道によれば、馬を手やムチでたたくなどして虐待行為をしたことについて、動物愛護法違反に問われているということであるため、このような行為について書類送検されていると考えられます。 「上げ馬神事」は約700年前から行われている神事ですが、動物愛護法にのっとれば、今回のこうした対応も仕方がないということでしょうか。 荒木弁護士:一般的な感覚として、馬を手やムチで叩くなどして興奮させたうえで、急な坂を上らせて2mの土壁を乗り越えさせるというのは、馬が怪我をする可能性が高い行為だといえると思います。 このように馬が怪我をすることをわかったうえで、叩いて急な坂を走らせていたことからすれば、「みだりに」外傷が生ずるおそれのある暴行を加え、またはそのおそれのある行為をしたといえます。
伝統行事でも許されない行為はある
――批判を受け、主催者側は改善策を検討し、馬の安全を優先したスタイルに改善しています。この点はどのように評価できるのでしょうか。 荒木弁護士:伝統を守りつつ、馬の安全性を守ることは、本来あるべき姿だと思います。 馬は足を骨折すると体重を支えられず、安楽死させなければならないこともある動物です。 そのため、従前の「上げ馬神事」のように、骨折のおそれがある行事を行うことは、殺処分をしなければならない可能性が高まる行為をあえて行っていることと同じであるため、伝統行事の側面があったとしても、許される行為だとはいえません。 ――動物を使った行事は、アヒルを使った沖縄の伝統行事「糸満ハーレー」があり、刑事告発もされています(不起訴)。長良川の鵜(う)飼いや高知の闘犬などもあります。こうした伝統的な行事も今後、改善や中止の方向へ向かうのでしょうか。 荒木弁護士:今回「上げ馬神事」の件が報道されたことにより、伝統行事であったとしても、動物の安全性を優先する動きが出てくると思います。 「動物がかわいそうだ」という声は一般市民からも聞かれることが多い行事ですから、今後は改善や中止の動きが出てくると思います。