「整う」から「無」に。2025年注目の「無の経済圏」とは
2024年12月24日発売の「Forbes JAPAN」2月号では、国内外の賢人たちによる「2025年総予測」を特集。 第2次トランプ政権が発足する25年1月以降、世界経済はどうなるのか。また、加速する人口減少のなかで日本経済はどう変化するのか。今年のノーベル賞受賞者ジェイムズ・A・ロビンソンをはじめ、マルクス・ガブリエル、石黒浩、川邊健太郎、JO1など国内外の研究者・経営者・アーティストなど各界の第一人者へにインタビュー。そこから見えてくる未来から、今を生きる私たちにとっての「希望」を描き出す。 本稿では、「2025年の注目市場」として、「無の消費」をテーマに、出村光世(Konel/知財図鑑 代表・クリエイティブディレクター)に話を聞いた。 “整う”感覚に魅力を感じる人が続出し、2010年代後半に到来したサウナブーム。コロナ禍でのウェルビーイングの浸透を背景に、サウナやフィットネスのようなフィジカルだけでなく、マインドフルネスのようなメンタル、CBDのようなバイオロジカルなアプローチも登場し、関連市場は拡大を続けてきた。ここでは、これらをまとめて「無」の消費と呼ぶ。 無とは何か──出村光世は「今の自分を受容できる感覚」と定義する。「こうしたい、ああしたいという“want,should, must”が削ぎ落とされて、“まあいっか”と思えるような状態です。日々タスクに追われている現代人は、急に“何もしないでください”と言われても意外とできないんですよね。スマホを触りたくなったり、次にやることを考えたり」 例えばサウナでも、通っているうちに“整わない問題”が発生するようになる。無になるために行くのに、手順や環境など細かいことが気になるようになり、しだいに過去の“最高に整った経験”に達することが目的になってしまう。では、本当の意味で無になるにはどうすればよいのか。出村がたどり着いたひとつの解が、ロボットサロンだ。 出村が代表を務めるクリエイター集団Konelは11月28日に、ブリヂストンの社内ベンチャーであるブリヂストンソフトロボティクス ベンチャーズとの協業で、東京・下北沢に「無目的室Morph inn」をオープンした(12月20日に終了)。ここで体験できるのは、横たわる体験者を上下から柔らかく包み込むロボット「Morph」だ。 「Morph」にはブリヂストンが長年研究開発してきたゴム人工筋肉が内蔵され、ベッドに横たわった人を上からも下からも優しく包み込む。ゴム人工筋肉には、大地の動きや動物の鼓動のような自然界のモーションをデータ化して連動させているため、まるで自然のなかにいるかのような体験ができる。 「ロボットで、かつ自然界の動きを組み込んでいるので、人間があれこれと調整できないのもポイントです。トトロのおなかに乗っているかのようなイメージで、10分間身を委ねると無になれる。コントロールができないので、期待値もなく初回でも10回目でも何も考えず身を委ねられるんです」