九死に一生を得た漫画家、後遺症で手は震え…支えになった亡き夫の「ひと言」とは?
● 17歳のチッチの片思いを 描けなくなってしまった 締め切りに追われていたわたしの生活が転機を迎えたのは、60歳を過ぎたころからでした。2人の子供たちが独立し、育児、家事を支えてくれていた義母が亡くなりました。 夫婦2人の生活になり、今でいう定年夫婦の危機です。お互いの欠点が見えるようになって、ケンカばかり。一番つらかったのは66歳のころ。 17歳のチッチの片思いを全く描けなくなってしまったのです。年齢的に無理がある気がして。もうやめようと、毎日そればかり考えていました。 その後、2年ほどして夫に食道がんが見つかり、すぐ息を引き取ってしまいました。マンガばかりだったわたしは、彼に優しい声ひとつかけてあげられなかった。自分の不甲斐なさから後悔の念でいっぱいになってしまいました。 そして、夫の死から1ヵ月後、突然の病がわたしを襲いました。胸が苦しくなり、意識を失ってしまいました。心不全でした。 妹が泣きながらスープを口元に運んでくれた光景や、長男が真赤になって足をもんでくれたことを思うと、「生きなくては!」と強く感じました。 九死に一生は得たものの、病気の後遺症で、長年愛用してきたペンを持つと、手が震えておかしなチッチになってしまいます。周囲からは、「もう無理することはない。連載はやめたほうがいい」という声もありました。 そのとき、支えになったのは、大切な人が遺してくれた思い出や、わたしをほめてくれた温かい言葉でした。過去を断ち切るという考え方ではなく、ちょっと不思議に感じられるかもしれませんが、思い出の中に自分を元気づけてくれる宝石のようなものが詰まっていました。 思い出の中で、いろいろあった夫も結婚前に戻って、「君はマンガ家だ。腰かけのつもりでやっているわけじゃないのだろう」と。そして、読者からの、うれしいファンレターの数々。あちこちの人たちの励ましに、ずいぶん助けられました。 ● サリーのモデルである 初恋の人・M君の訃報 年齢を重ねると、なかなか前を向いて歩けないときもあります。わたしはどうしても前向きになれないタイプです。でも、逆に後ろを見たら、輝いているわたしの道が見つかりました。物語を終わらせよう。そう心に決めたとき、悩みつづけた迷路から、ようやく抜け出すことができたのです。