丹波漆を研究の大学院生2人 産地の夜久野で成果発表/京都府福知山市
良質の夜久野産「丹波漆」再興に取り組むNPO法人丹波漆(高橋治子理事長)は、大学や学生たちとの連携を広めている。漆をテーマに複数の研究が進められていて、新しい知見が集まりつつある。その一端が、京都府福知山市夜久野町内の2会場で10日に開いた「うえるかむまつり」で発表された。 まつりは漆への興味・関心を深めてもらう場、漆再興を支援する各地の人たちの交流の場として開いていて、今年は62人が参加した。地元の人たちに加え、三重県や岡山県、京都市内などからの漆芸関係者や府内外の学生も8人訪れた。 夜久野高原で漆の苗木の植樹会があり、これに先立ち、夜久野町額田の市夜久野ふれあいプラザで講演会があった。京都府豊かな森の恵み創造事業(森の文化発信)の一つ。大学院生2人が、大学時代から夜久野に通って調査、研究してきた内容を発表した。
「漆と成長していく建造物」京都工繊大の菰田さん
京都工芸繊維大学大学院で建築学を専攻している菰田伶菜さんは、「丹波漆伝承物語」と名付け、漆の木と一緒に成長していく建造物の研究を発表。漆の苗木の周囲に木組みの建造物を建て、木の成長に合わせて規模を拡大し、カフェや体験工房などを備えた漆のテーマパークのようにしていく。外壁材には伐採した漆の木などを使い、持続可能な取り組みとしてプランを練っている。 「漆の森に人を呼び込む」発想で、NPO副理事長の大藪泰さんは「私たちには無かった視点」だと話し、ほかの来場者たちも実現に期待するメッセージを寄せていた。会場で紹介した模型などは、来年の大阪・関西万博に期間限定で展示されるという。
「伝統技術に学術の裏付け」京都大の二社谷さん
次に発表したのは京都大学大学院農学研究科の二社谷悠太さん。漆の木と光合成などを調べている。地道で根気のいる作業で、つい最近も15日間にわたり、夜久野町内に泊まり込んで現地調査にあたった。 講演会では光合成の化学式を紹介し、漆の成分と炭素の関係を説明しながら「光合成は地球上のあらゆる生物にとって不可欠な現象であり、植物が地球上の生物を支えている」と解説。地方の強みは植物が豊富な点にあり、夜久野の魅力は漆だと力説した。 また漆の木から出る漆液の量を計測したデータをもとに、一日のうちでも早朝と昼過ぎでは数値に2倍ぐらいの違いが出ることを報告。漆掻き職人たちが経験則として早朝に採取作業をしてきたことを、学術的に裏付けた。 一方で、季節ごとの計測では、10月下旬にピークを迎えているのに対して、実際の漆掻きは夏に盛りを迎えているという具合に「時期のズレ」が生じており、来場者の関心を呼んだ。二社谷さんは、いずれのデータもさらに考察を進めていくことにしている。 NPOでは、丹波漆増産へ向けて、現在、大学などと林産学、植物生態学、植物分子生理学、地域環境学、地域社会学分野で連携をしているという。