高額も納得の特殊素材でソーラー文字盤表現の限界を突破したカシオウオッチ50周年記念限定「オシアナス マンタ」開発秘話
–「オシアナス マンタ」というとスリムデザインが大きな特徴ですが、このモデルはサファイアを厚く設計したり、文字盤の立体感を強調したり、存在感を優先させた印象を受けます。 佐藤さん:OCW-SG1000ZEは、このモジュールだからできる立体的な作り込みを重視しました。 黒羽さん:普通のシリコン系のソーラーセルだとモジュールの上にソーラーを乗せて文字盤がくるのですが、OCW-SG1000ZEの場合はモジュールにガリウムタフソーラーを入れたあとにまたカレンダーディスクを載せていくわけです。こうしたイレギュラーな構造の製造工程も、高額品を手組みしていく山形カシオのプレミアムプロダクションラインの協力によって、350本の限定製造を実現しました。
佐藤さん:OCW-SG1000ZEは、新しい技術を使ってできるあらゆることにチャレンジしてできた渾身の一本。50万円という価格に見合ったものができたと自負しています。本当にガリウムタフソーラーって、びっくりするぐらい高価なんですよ(笑)。さらにサファイアベゼルですし、ケースもオールDLCなので長く綺麗にお使いいただけると思います。50周年を迎えたカシオウオッチの最先端技術を、ぜひオシアナスを通じて知っていただけたら嬉しいですね。
取材後記
取材中の余談として、カシオとシャープの接点は2013年に発明した遮光分散型ソーラーの記事をシャープの関係者が目にしたことがきっかけだったという。そこから限定35本の金無垢G-SHOCK「G-D5000」で初めてガリウムタフソーラーを採用し、その後ユニークピースの「G-D001」にも使われた経緯がある。海外にもガリウムタフソーラーを製造する企業はあるそうだが、腕時計に使えるレベルまで薄く作れるのはシャープの強み。 とはいえ宇宙産業など大型設備が前提のため、腕時計に組み込んでいるのはカシオだけではないかと思われる(以前にカルティエはアイコニックな黒のローマ数字インデックスを利用して光を透過させる「タンク マスト ソーラービート」を出していた。詳細は不明ながら、あれももしかしたら文字盤下層にガリウムベースのソーラーセルを使用しているかもしれない)。 OCW-SG1000ZEには円弧状のガリウムタフソーラーを入れているが、やろうと思えば完全なリングにすることも、文字盤全面にすることもできたという。ただ、サイズの大型化によりレアメタルであるガリウムから取り出せるソーラーの個数が減ってしまい量産が難しくなるため、必要十分なサイズに抑えたとのことだった。ソーラーだけならまだしも、電波受信という機能まで加えると非常に制約が多くなる。それも踏まえると、最新作では金属文字盤が使用可能になった点こそ、重要な技術革新と思える。 これは筆者の勝手な希望だが、今後は消費電力の大きなGPS搭載モデルにもガリウムタフソーラーの高効率発電を活かしてほしいと思う。また、同様に宇宙繋がりでメテオライト(=隕石)文字盤というのも面白そうだ。高額になるという課題を除けば、カシオが推し進めているCMF(カラー、マテリアル、フィニッシュ)デザインを加速させる原動力となるのは間違いなく、開発者でない筆者でさえも夢は広がるばかりだ。
Text/Daisuke Suito(WATCHNAVI) Photo/Kensuke Suzuki(ワン・パブリッシング)