バンクシーはなぜパレスチナで作品を描き続けるのか?
その「世界一眺めの悪いホテル」は、イスラエル軍によるガザ侵攻を受けて10月12日以降、閉館してしまった。宿泊予約も受け付けておらず、運営再開の見通しも立っていない。ホテルの場所はガザ地区内ではなくヨルダン川西岸地区だが、すでに連日報道されているように、イスラエル軍による空爆や攻撃はガザ地区に限った話ではなく、西岸地区でも死傷者が日に日に増えている。そして、この状況も今に始まったことではなく、イスラエル軍や入植者による暴力は日常化されていたのだ。
何が言いたいかというと、バンクシーがパレスチナで制作活動を始めたのは約20年前のことで、パレスチナの占領と攻撃は今に始まった話ではまったくないということだ。この惨事は10月7日から始まったわけではない。先月の安全保証理事会で、グテーレス国連事務総長がハマスによるイスラエル襲撃を非難した上で「何もない状況から急に起こったわけではない」、「パレスチナの人々は56年間、息のつまる占領下に置かれてきた」と長期間にわたるイスラエルのパレスチナ占領と暴力を明確に非難した。 国連がイスラエルを非難するのもこれが初めてではない。2002年にイスラエル政府が建設を始めた分離壁も国際法違反を繰り返し指摘してきた。全長700キロを超えた今なお建設が続いているが、国連もアメリカもイギリスも誰もイスラエルを止められていない。そして、この悪名高い分離壁に当時からアートで風穴を開けようと作品を描き続けてきたのがバンクシーだ。
2014年のイスラエル軍によるガザ地区の大規模空爆と地上侵攻を受けて、2015年にバンクシーは地下通路からガザ地区に侵入、4点の作品を残した。その中に2点、今またSNSで何度も繰り返し取り上げられている作品がある。ひとつは《子猫》だ。 ガザ侵攻では死者は2300人にも上り、その7割が民間人だった。この地上侵攻は各国のテレビや新聞で大々的に報道されたが、イスラエルの国際法違反や戦争犯罪を追認する動きまでには至らなかった。バンクシーはその爆心地に残した作品について「地元の男性がやって来て“この作品はどういう意味なんだ?” と聞いてきたので、こう答えた。俺は自分のウェブサイトにガザ地区の写真を掲載して、この惨状を訴えたいと思っている。けどインターネットの人間は、子猫の写真ばかりしか見ないんだよ」という皮肉と憤りが入り混じったコメントを発表している。