日本はどうすれば格差社会を脱却できるのか?…第一人者が明かす、貧困大国・日本への処方箋
社長と社員の給与格差、どれくらいならOKですか? 日本では、資産5億円以上の超富裕層は9万世帯。単身世帯の34・5%は資産ゼローー。 【写真】日本が「格差社会」であり続けている驚愕の理由 富裕者をより富ませ、貧困者をより貧しくさせる今日の資本主義。 第一人者が明かす、貧困大国・日本への処方箋。 本記事では、〈日本が「格差社会」であり続けている驚愕の理由…「格差是正」を支持する人は少数派だった? 〉にひきつづき、日本における格差是正策などについてくわしくみていきます。 ※本記事は橘木俊詔『資本主義の宿命 経済学は格差とどう向き合ってきたか』から抜粋・編集したものです。
先進資本主義国の区分
先進資本主義国を、(1)経済(経済効率性)優先か平等性重視か、(2)福祉国家か非福祉国家か、(3)福祉の提供は普遍主義か、選別主義か、の三基準(家族主義か自立主義かを含めれば四基準)で分類してみた。表8-1がそれである。 なお経済優先か平等性重視かの区分は、政府が税制や社会保障制度によって、どれほど所得再分配政策(国民の所得の平等化を図る政策)を行うのか、その強弱の程度に関係することを認識しておきたい。 福祉の提供における普遍主義か選別主義かの違いは、前者が国民全員を性、職業、身分、年齢などで区分せずに平等に扱うのに対して、後者は職業、身分、年齢などで区別して制度をつくる。選別主義のわかりやすい例は、日本での医療保険が、大企業用(組合健保)、中小企業用(協会けんぽ)、自営―無職用(国民健保)で区分されているのでわかる。 最後の家族主義か自立主義かの区分は、選別主義において誰が主たる支援者かに注目した、家族か自分(自立)か、の違いである。 まず福祉国家か、非福祉国家かについて述べてみよう。これは国民への福祉の提供(年金、医療、介護、失業、生活保護)に際して、国家がどれほど税金・社会保険料を徴収して、それをどれほどのサービスとして国民に提供するかの強弱の程度に応じての区別である。 本来ならば、スウェーデン、ノルウェー、デンマークの高福祉・高負担の国々、オランダ、ドイツ、イタリア、フランス、イギリス、カナダ、オーストラリアの中福祉・中負担の国々、日本、スイス、アメリカの低福祉・低負担の国々の三区分が好ましいが、ここでは敢えてわかりやすく二区分にした。 日本は現時点では年金支給額や医療給付額では中福祉の水準にいるが、保険料収入額が低いことと、それぞれの保険制度が少子高齢化によって大幅な財政赤字を抱えていて、将来は中福祉の支給水準を維持するのが不可能である、との予想があるので低福祉・低負担にあるとした。 すでに述べたことでもあるが、スウェーデン、ノルウェー、デンマークの北欧諸国は、福祉の水準がとても高いが、国民の負担もとても高いという福祉国家である。一方、日本とアメリカはその逆で非福祉国家の典型である。北欧諸国がなぜ福祉国家になったかについては、『資本主義の宿命』第4章で論じた。 日本では福祉の提供は、成人した子どもが親の経済保障を行い(これは3世代同居という慣習で確保された)、親の医療・介護の世話も同じく成人した子どもの役目であった。政府が必ずしも福祉の提供を行う必要がなかったのである。子どもがいないとか、独身を通す人に関しては、まわりの親族が面倒を見るということになっていた。 アメリカに関しては、もともとは移民の国なので独立自尊の精神が強く、誰にも頼らないという意識の強さによって、福祉は自分でまかなうという意識が強くなることはすでに述べた。さらに、国民の間で経済を強くする必要がある、すなわち豊かになりたいとの意向が強いので、国民に高い税や保険料を課すと経済成長にマイナス効果があるとして、それを避けるべしとのコンセンサスが国民にあることも大きい。 それならカナダ、オーストラリアもイギリスの旧植民地だったので、アメリカ人と同じ意識を持っても不思議はないが、これらの国は英連邦の国として旧宗主国のイギリスの伝統を引き継いでおり、アメリカのような低福祉・低負担の国にならなかった。もう一つ英連邦諸国の結びつきを物語る証拠は、医療給付の財源を保険料に求めず、三国とも税金を財源にしている点にある。さらに加えれば、この三国は福祉の提供方法において選別主義ではなく普遍主義にある点も共通である。 普遍主義か選別主義かに関しては、ドイツ、フランスなどの大陸ヨーロッパ諸国が選別主義であり、イギリス、カナダ、オーストラリアのアングロ・サクソン諸国が普遍主義という特色がある。これは一つの理由として、大陸ヨーロッパ諸国ではドイツに代表されるように、福祉が社会保険料方式でスタートした歴史にも依存する。ついでながら日本の福祉制度はドイツを真似た点が多いので、選別主義になっている。