亀田興毅氏が挑戦した新スタイルBOX興行の収穫と課題…兄弟世界王者を狙う力石、元世界王者宮崎の5年ぶり復活ドラマを生むも
かつての同門だった4階級制覇王者でWBO世界スーパフライ級王者の井岡一翔(志成)とは、いまも連絡を取り合っているといい「お互いに刺激し合ってがんばろうと話している」とのこと。今後については、「フライ級でやるつもり。ただ、チャンスがあればライトフライ級でも落とす」と世界王座返り咲きへの方向性を示した。 もっとも、公務執行妨害で逮捕され、3年の執行猶予が明けるまでライセンスが再取得できず、ボクシングを離れている間に身の回りの環境は劇的に変化した。2人のお子さんの父親となり、第3子も予定日を過ぎている。試合後は心ここにあらずの様子で、「ひとりのときは、ここまで本気でボクシングに取り組んでいなかった。センスだけ。いまの方がかける思いは強い。来年には何かタイトルをつかみたい」と野心満々だった。 3150ファイトクラブで再出発した宮崎に亀田会長は「すばらしい試合だった。スパーリングでは心配していましたが、本番に強い。元世界王者の片鱗を見せてくれましたね。今度はもっと上の選手とやって、2、3戦でタイトル戦に」と青写真を描いた。
しかし、この日のリングにはまだ続きがあった。全カード終了後に、JBC管轄外のエキジビションマッチが組まれ、元東洋太平洋クルーザー級王者で地下足袋ファイター「西島洋介山」のリングネームでも活躍した西島洋介さん(48)とアマ5冠のヘビー級、但馬ミツロ(27、3150ファイトクラブ)が対戦。その直前には潮が引くようにJBC関係者が、立ち去ったのが印象的だった。 試合は、西島が積極的に立ち向かったものの、パンチ力で上回る但馬が圧倒し、2Rでレフェリーストップとなった。勝った但馬は「西島さんは自分が中高生のころテレビで見ていた人。そんな人のキャリアの最後に立ち会えて、熱い思いがこみ上げてきた。スパーリング用のグローブ(12オンス)でしたが、西島さんの目の奥の火は消えていなかった。それを見て、うれしくなったし、僕もつい力がこもった」と振り返った。 亀田会長は「今後はヘビー級のトップクラスがゴロゴロいるロシアに行かせる。ロッキー4の丸太を担いで鍛えさせようかな」との育成プランを口にした。 “引退”のテンカウントを聞いた西島は「最後にボクシングで終われ、思い残すことはない」と感無量。ヘビー級の後継者に向け「85キロほどだった僕と違って彼はナチュラルウエート。大きくてスピードがあって、当て勘がある。世界のいいところまで行く可能性がある」と太鼓判を押した。 また前座として行われた「エンタメファイト」では、お笑いタレントのTKO木下隆行さんとプロレスラー丸藤正道がボクシングのエキジビションで対戦、ユーチューバーのゆたぽんも“デビュー”した。JBCは、ライセンスを持たないボクサーの“非ボクシング”を認めておらず、これらの試合と、但馬の試合は、JBC管轄外のエキジビジョンとアナウンスされた。だが、観客の入れ替えもなく、同じ興行内で行われ中継したAbemaTVでは、まるで但馬の試合がメインのような扱いだった。但馬の試合のレフェリーライセンスを持たない元ボクサーがレフェリーを務めており、ヘッドギアもなし。安全面の担保を含め問題も残った。日本プロボクシング協会の一部からは、興行のあり方に疑問の声も出ている。 亀田会長の一般の人にも幅広くボクシングに興味を持ってもらいたいとする改革路線は理解できるし、事前にJBC、協会との協議も行われていたようだが、もう一度、ルール問題は整理しなければならないだろう。 自身の旗揚げ興行を亀田会長は、「興行的には赤字かとんとんだったが、世界戦並みの演出ができた。素人とプロの違いを含め、ボクシングの魅力を感じてもらえたのではないか。これを見た選手は3150のリングに立ちたいと思ったはず。井上尚弥選手がPPVでボクシングの新たな道を作ってくれているのはありがたいこと。大阪を軸に、今後も興行を打っていきたい」と総括した。次回は来春を予定している。 (文責・山本智行/スポーツライター)