豊田章男会長は「かっこいい!」と叫んだ…トヨタ悲願の「空飛ぶタクシー」実現を叶えた、亡き祖父との"約束"
■なぜ豊田喜一郎は空を目指したのか ジョビー・アビエーションの創業者、ジョーベン・ビバートはあいさつでこんなことを言っていた。 「私はトヨタの車が好きで、初めて買った青のピックアップにまだ乗っている。仕事でもまだそれを使っている。車の運転も大好きだ」 自動車が普及したのは老若男女、誰もが簡単に運転できるからだ。ジョビーの機体も自動車のように操縦が簡単だ。空飛ぶクルマが普及するかどうかは自動車のように簡単に操縦できるかどうかも重要な判断材料となるだろう。 前述したが、ジョビー・アビエーションの機体開発にはトヨタが協力している。同社が持つ車の技術が機体の性能を向上させている。一方、機体開発で得た知見をトヨタは車の技術に回帰させてもいるだろう。 つまり、車の技術と空飛ぶクルマの技術はお互いを向上させているわけだ。 豊田喜一郎が小型ヘリコプターの開発に手を付けたのも、空を飛ぶための技術がいつか自動車の技術にも役立つと信じたからではなかったか……。 ■飛行機を作った国が作る車はぜんぜん違う かつて、インタビューしたことのある自動車の名エンジニア、桜井眞一郎が飛行機と車の関係について、こんな話をしていたことがある。桜井はプリンス自動車、日産で名車スカイラインの開発をした伝説のエンジニアだ。 桜井は言った。 「日本、アメリカ、イギリス、スウェーデンといった飛行機を作った国が作る車と、中国、韓国みたいに飛行機を作っていない国の車はぜんぜん違うんだよ」 私は素直に「いったい、どこが違うのですか?」と聞いた。 桜井はこう答えた。 「そりゃあ、キミ、空を飛ぼうと思ったことのないエンジニアが作った車なんて、まったく面白くないんだよ」 ---------- 野地 秩嘉(のじ・つねよし) ノンフィクション作家 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。 ----------
ノンフィクション作家 野地 秩嘉