豊田章男会長は「かっこいい!」と叫んだ…トヨタ悲願の「空飛ぶタクシー」実現を叶えた、亡き祖父との"約束"
■モーターが2つ停止しても飛行できる プレゼンテーションのなかで、同社のエンジニアが強調していたのが機体の「静粛性」と「冗長性(リダンダンシー)」だった。 日本にも空飛ぶクルマの機体製造会社はあるが、いずれの会社の機体スペックを見ても、速度、航続距離といった機体の性能を第一に掲げている。ジョビー・アビエーションのように「静粛性」「冗長性(リダンダンシー)」を声高に主張しているところはない。 ふたつの特徴のうち、冗長性は耳慣れない言葉だ。英語ではredundancyと言い、システムや構造を二重化して予備手段を持つことである。つまり、飛行中、事故が起こっても、墜落しないような安全構造にしてあるという意味だ。機体には飛行のためのモーターが6個ついている。エンジニアによれば、うち2個のモーターが停止しても、飛行に問題はない構造にしてある。 次に「静粛性」だ。同社エンジニアは静粛性の価値について、こう言った。 「ジョビーの機体の革命的なところは乗っていて静かなことです。たとえばヘリコプターに乗っていると騒音がします。90dBA(dBA=サウンド、ノイズの単位)です。そして、トラックが走っている音が80dBA、家庭にある掃除機の騒音が75dBA、人が近くで話しているのが60dBAです。それに比べると当社の機体に乗っている騒音は45dBA。機内では会話が楽しめます」 ■操縦は驚くほどかんたんだった もうひとりのエンジニアはこう言った。 「当社の機体は会話を楽しみ、快適に乗ってもらうために作りました」 私たち乗客は荷物ではないのだから、騒音のなかで座っているよりも、ストレスのない環境で移動したい。ジョビー・アビエーションのエンジニアはそこのところをよくわかっている。モビリティに乗る時の楽しさを承知して設計している。そして、思えばモビリティに乗る楽しさを追い求めているのはトヨタも同じだ。 プレゼンテーションの後、わたしはフライトシミュレーターの操縦席に乗ってみた。 ジョビー・アビエーションのエンジニアに手を引っ張られたので、嫌々、操縦席に座ったのである。おそるおそる試したのだけれど、やってみたら操縦は簡単そのものだった。ゲームセンターで遊ぶのと変わらない。 操縦に使うのはふたつのバーだけ。右手のバー(操縦桿)が上昇下降と旋回、左手のバーがスピードの調節。商業運航の場合、操縦するのはパイロットだ。もちろん資格がいる。しかし、操縦そのものは飛行機やヘリコプターよりもはるかに容易といえる。自動車を運転することと変わらない。普通の人でも操縦できないことはない。 フライトシミュレーターはよくできていて、浮遊感、スピード感は実際に飛んでいるかのようだった。