石田ひかり圧倒的な存在感を放った90年代を回顧、映画『ふたり』、朝ドラ『ひらり』、連ドラ『あすなろ白書』
青春ファンタジー映画の傑作のひとつとしていまなおファンの多い『ふたり』で、当時若干18歳でありながらも圧倒的な存在感を放った俳優・石田ひかり。1992年秋から93年春にかけて放送されたNHK連続テレビ小説『ひらり』のヒロイン・藪沢ひらりを演じ、国民的な人気者となり、年末の紅白歌合戦では2年連続で司会を務めた。平成を代表するドラマ『あすなろ白書』(93年・フジテレビ系)をはじめ、以後も数多くのドラマ、映画、舞台などで活躍。結婚、出産を経て、近年は母親役としての活躍が多いが、今秋放映されたドラマ『全領域異常解決室』では夜を治める”神様”役が話題を集めた。10代の頃から芸能界に身を置き、様々な体験を経た石田さんのCHANGEについて聞いてみた。【第2回/全4回】 ■【画像】石田ひかり圧倒的な存在感を放った90年代を代表するドラマ「あすなろ白書」 中学生でアイドル歌手としてデビューした石田さんだったが、ヒットには恵まれなかった。しかし、高校3年生の時に出演した映画『ふたり』での大林宣彦監督との出会いが大きな転機となった。18歳の夏に撮影した『ふたり』は、事故死してしまった姉・千津子(中嶋朋子)とその妹・実加(石田)の共同生活を描いた青春ファンタジーで「新・尾道三部作」の第1作として今でも語り継がれる作品である。 「大林監督はとても穏やかで、何もかも受け入れて下さる、本当に海のような方でした。太平洋のようでもあり、瀬戸内海のようでもあり。現場では毎日台本が変わり、どんどん台本が分厚くなっていったんですが、どんな画を撮るのかというのは監督の頭の中にしかないんです。私にとっては映画そのものが初めてでしたし、比べるモノも無いので、疑問に思うこともなくて、がむしゃらに前に進むだけでした。みんな何をやっているのか判らなくなっているんですけど、とにかく監督を信じてやっていくと、素晴らしい作品が出来上がる……という現場でした」
やっぱり朝ドラは大きな目標でした
『ふたり』が公開された翌年に放映されたドラマ『悪女(わる)』でも注目を集めた。落ちこぼれOL・田中麻理鈴(石田)が出世を目指し奮闘する姿を描いたこのドラマをプロデュースしたのは伊地知啓さん。伊地知さんは沢田研二主演『太陽を盗んだ男』、薬師丸ひろ子主演『翔んだカップル』、『セーラー服と機関銃』や『あぶない刑事』シリーズなどのヒット作を手掛けた名プロデューサーであった。伊地知さんとの出会いもまた大きな影響を与えた。 「伊地知さんって、いつもニコリともしないで怖~い顔をしているんです。大林監督とは正反対。でも、すごくシャイな方でした。『悪女(わる)』の後で、映画『あいつ』(91年)という超能力を題材にした作品をプロデュースされ、私も出演させていただきました。その後、私がもう少し大人になってからは、食事に連れて行ってもらったり、色んな相談に乗ってもらったりして保護者のような存在になりました」 そして93年にはNHK朝ドラ『ひらり』で相撲好きなヒロイン・藪沢ひらりに抜擢された。 「やっぱり朝ドラは大きな目標でしたので、ヒロイン役に決まった時はとっても嬉しかったですね。でも、あの頃の私って本当に何も考えていなかったんですよ。とにかく、あまり悩みも無かったですし。だから今、共演する若い役者さんに“ここはどうしたら良いですか”なんて訊かれると“偉いな~”って思うんですよ。私がこのぐらいの時ってそういうこと考えたこと無かったなって。でも、作品自体は本当に面白かったし、最近はオンデマンドでも見られるので、親にもう一回見せてあげられるのはとても嬉しいです。『ひらり会』という集まりがあるのですが、この前、20年振りぐらいにスタッフやキャストが集まったんです。感慨深かったですね」 その頃の石田さんといえば、忘れてはならないのが平成を代表するドラマ『あすなろ白書』(93年)。5人の大学生(石田ひかり、筒井道隆、木村拓哉、鈴木杏樹、西島秀俊)の学園生活を描いた青春群像劇だ。最終回の視聴率は31.9%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録し、社会現象にもなった。 「『あすなろ会』というのもあるんです。開きたいんですけど、皆さん多忙なのでなかなか集まれないのが悩みです。全員揃わなければ意味がないので」 プライベートでは2001年に結婚。 「ものすごく若い時には山口百恵さんのように結婚したら仕事を辞めようと思っていました。母が専業主婦でその姿をずっと見ていたので、それしか知らなかったんですよね。仕事をしながら(家事を)やっていく自分というものを想像できませんでしたし、いい奥さんになりたいという夢もありました。子供を産んで一時期仕事を休まざるを得なくなったんですが、そのうち専業主婦に向いていなかったということに気付きました。家事全般をこなすことに行き詰まりのようなものを感じて、社会と接点を持つことの必要性を痛感させられました」 そして2006年に本格的に俳優の仕事に復帰することになった──。 石田ひかり(いしだ・ひかり) 1972年5月25日、東京都生まれ。A型。T160。1986年、ドラマで俳優デビュー。1987年、シングル『エメラルドの砂』でアイドル歌手としてデビューを果たす。1991年に公開された主演映画『ふたり』で「第34回ブルーリボン賞」をはじめとする多くの新人賞を受賞。以降、多くの映画やドラマを中心に活躍。最近作に『九十歳。何がめでたい』、『ブルーピリオド』などの映画や『あの子の子ども』、『全領域異常解決室』などのドラマがある。公開待機作に映画『366日』(2025年1月10日公開)がある。 鈴木一俊
鈴木一俊