「名古屋コーチン」は小牧で生まれ、オール愛知で育んできた地域の食文化~大竹敏之のシン・名古屋めし
旧尾張藩士が小牧市で開発・飼育
名古屋めしの中でも屈指のブランド食材、名古屋コーチン。比内地鶏(秋田県)、薩摩地鶏(鹿児島県)と並ぶ日本三大地鶏のひとつです。 その歴史は古く、明治時代に旧尾張藩士、海部(かいふ)壮平・正秀兄弟によって開発されました。「名古屋コーチン」の呼称はその当時からのものです(正式には大正時代に改称された「名古屋種」)。 名前からして名古屋のものと思われていますが、実は発祥は愛知県の小牧市なのだとか。 「海部兄弟が小牧市池之内(市内北東部)にあった養鶏場で開発しました」とは小牧商工会議所の三浦恵子さん。市内にはかつて海部家の菩提寺もあり、ゆかりの地で研究、飼育に取り組んだのだそう。しかし、その史実は一般にはあまり知られていませんでした。 「もともと小牧市は観光やグルメをアピールする機会が少なく、名古屋コーチンの発祥地であることもPRしてこなかったんです。しかし、18年ほど前から地域の資源を活用しようという気運が高まり、地元の養鶏関係者から『コーチンを町おこしに活かしたらどうか』という声もあり、積極的なPRに取り組むようになりました」 2011年には小牧商工会議所が中心となって「名古屋コーチンプロジェクト」が発足。HPを開設して歴史や取り扱い店を紹介し、名鉄小牧駅前にコーチン像のモニュメントも設置しました。2023年には、名古屋コーチンのひなの生産拠点である愛知県畜産総合センター種鶏場が愛知県安城市から小牧市へ移転。市場で名古屋コーチンと名乗れるのはここで生まれたひなを育てたものだけ。小牧市は、名古屋コーチンの歴史的なルーツであると同時に、市場に流通する名古屋コーチンのふるさとにもなったのです。 そんな小牧発の食文化が「名古屋コーチン」と広く認知されていることを、小牧の人たちはどう感じているのでしょうか? 「『小牧コーチン』と名乗ってはどうか?という声が上がったこともありました。しかし、『名古屋コーチン』のブランド力が確立されているので、今さら小牧と名乗っても小牧を意識して買ってくれる人は少ないでしょう。小牧の種鶏場のひなを飼育する養鶏場は県内各地にありますし、名古屋コーチンはオール愛知で守ってきた食文化です。最近は小牧発祥ということも少しずつ浸透してきたので、この努力を今後も続けていきたいと思っています」 そもそも「名古屋」という言葉は決して「名古屋市」だけを指すものではありません。総務省や国交省による「大名古屋都市圏」という用語は、愛知県どころか岐阜や三重を含む東海地方全域を指しています。「名古屋めし」「名古屋コーチン」の「名古屋」も、名古屋市を含む愛知県さらには東海地方という広域を意味している、と考えれば、「名古屋が周りの町の名産をパクっている」などといわれもない風評が立つこともなくなるのではないでしょうか。