OpenAI創業メンバーとブルネロ・クチネリがAIに託した「哲人思考」
7月、ミラノに世界中からジャーナリストが招待された。そこで発表されたのは新しいAI。それは、意外な組み合わせから始まった。 ミラノのピッコロ劇場に世界中からジャーナリストや編集者が招待されたのは、今年7月のことだった。 歴史ある市民劇場が貸し切られ、さまざまな肌の色をした人々がシートを埋めていく。ステージの前では地元イタリアのテレビクルーが登壇者を待ち構えている。今日の主役は、ブルネロ・クチネリだ。カシミアで世界を制したイタリアの最高級ブランドの創始者であり、著書『人間主義的経営』(クロスメディア・パブリッシング刊、原題「ソロメオの夢」)が注目されたことで、今もソロメオ村の本社には職人たちの働き方を視察するため、世界中から取材者が訪ねてくる。 田舎でのものづくりにこだわるブルネロ・クチネリが、意外にも「Solomei AI」なるAIサイトを開発した。それが、この日の記者会見のテーマであった。 しかし、発表会の後、ジャーナリストのひとりが困惑した表情で私にこう尋ねてきた。 「あなたはどうやって記事にするつもり?」 おそらく私だけでなく、多くの参加者が腹落ちする答えを見いだせなかったのだろう。記者発表に臨んだジャーナリストたちが聞きたかったのは、なぜファッションブランドがAIなのか?これはeコマースの延長なのか?だったからだ。 公開された「Solomei AI」ベータ版のAIサイトに特徴について質問すると、こんな答えが返ってきた。「(サイトの)訪問者との対話を通じてブランドの深い価値を伝えます。古代ギリシャの賢人たちにインスパイアされたコンポーネントが、知的で洗練されたデジタル対話を可能にしています」。 なぜこのようなAIをつくったのか。 私はミラノ在住の安西洋之(ビジネス+文化のプランナー)とともに取材を進めて読解していくことにした。まずはヒントと思われる、一枚の写真の謎解きから始めてみたい。 ■ジェフ・ベゾス、マーク・ベニオフたちとの交流 上の写真は左から、ペルージャ大学の学長マウリツィオ・オリヴィエロ、同大学から名誉人文科学博士号を授与されたリンクトインの創業者リード・ホフマン、故スティーブ・ジョブズの妻ローレン・パウエル・ジョブズ、そしてブルネロ・クチネリである。シリコンバレーの成功者がなぜイタリアに集まるのか。 おそらくブルネロ・クチネリのもとを最も早く訪ねてきたシリコンバレーのテック起業家としての成功者は、インスタグラムの創業者ケビン・シストロムだろう。彼は2010年にインスタグラムを創業し、2年後にフェイスブックに売却。その後も同社のCEOを務め、16年にブルネロ・クチネリに会いにミラノに出かけている。その2年後、彼は突然インスタを退社した。「インスタグラムは魂を失った。お金を稼ぐビジネスの装置になってしまった」という批判をメディアに語っている。 次にマーク・ベニオフ。セールスフォースの創業者だが、社会活動家としても有名である。ベニオフが初めてブルネロ・クチネリと会ったのは2016年。インスタ社のシストロムらとサンフランシスコの知人宅で会食をした。ここで彼らは意気投合していく。