「日本には、アジアラグビー界の兄貴分としての役割を果たしてほしい」。アジアラグビー会長、カイス・アルダライ氏の切実な思いと情熱
2019年にアジアラグビーの会長に就任し、’24年の再選後は二期目を務めるカイス・アルダライ氏。アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで生まれ育ち、若い頃はサッカーでUAEの年代別代表、及びフル代表でもプレーした経験を持つ。その後、ドバイで監査やラグビーに関わる仕事でハードワークを重ね、アジアラグビー会長職までキャリアの階段を登り続けた。ラグビーを本格的にプレーした経験はないが、スポーツを通じた国際交流に情熱を傾ける熱い漢(おとこ)だ。 日本を含めた36か国を統括するアジアラグビーは、UAEなど地理上は西アジアに区分されるアラブ諸国の強化もその存在意義とする。これだけ多くの国と地域をカバーするアジアラグビー統括国のなかで、日本は唯一のワールドカップ出場、さらには決勝トーナメント進出経験も誇るダントツの大国という位置にいる。そんな日本に向け、アルダライ氏は熱く語ってくれた。 「ラテンアメリカでアルゼンチンが果たしている役割を見てください。長い間、この地域で唯一のワールドカップ出場経験のある国として、A代表との試合など様々なプロジェクトを通じてラテンアメリカのラグビーの普及と強化に大きく貢献してきました。ウルグアイ、チリのワールドカップ出場に、アルゼンチンのラグビーが大きな貢献をしたのは間違いありません。日本ラグビーにも、アジアラグビー界の兄貴分として、弟分たちの成長を助けてほしいという願いがあります」 自らをリフォーミスト(革新者。極端な言い方をすると革命派)と称するアルダライ氏。アルゼンチンラグビー界の伝説的な選手としての実績を持ち、ワールドラグビーのバイスプレジデントも務めたアグスティン・ピチョット氏と、ラグビー地政学上の理念を共にする。両氏は個人的な友人としての付き合いもあるそうで、アルダライ氏が情熱を持ってアジアラグビー会長の仕事をしているのが伝わってくる。 「2027年のワールドカップから出場枠が24か国に広がり、アジアから日本以外の国がワールドカップに出場することになりました。予選は今年の6月に始まります。出場権をかけて戦う国の選手たちは、アマチュアながらもワールドカップに出場する一生に一度のチャンスとして、真剣に準備をしています」 ラグビー地政学といえば、日本はティア1の伝統国、いわゆる“西側諸国”との交流や、それを通じた競技力の向上を目指している。 “その他のアジア諸国の代表団”という側面も見えるアジアラグビー協会は、日本ラグビー関係者の心にはあまり響かない存在かもしれない。 日本代表としても、こうした国々との交流によって強化につながる道は見えない。2025年1月の時点でワールドラグビーランキング13位の日本代表が、22位の香港代表や35位の韓国代表、50位のUAE代表とテストマッチを組むシナリオは考え難い。A代表やU23という形でも、なかなか対戦が実現し難いのは仕方がない。 だが、シーズンを終えたリーグワンの若手主体チーム、あるいはディビジョン2や3のチームが、6月から’27年ワールドカップ出場枠をかけて戦うアジアの代表チームと練習試合をするとなると、可能性はあるのではないか。 「香港、韓国、ドバイ、日本のどこでもいいです。マレーシアのジョホールバルでもできるかもしれません。とにかくアジアの代表チームに、日本のチームと戦うという経験をさせてもらいたい。アジアラグビーから、兄貴分である日本に対するお願いです」 日本側の地方自治体と連携をとり、文化交流イベントとして開催することも検討の余地はあるだろう。現実として渡航費、宿泊費、開催会場関係の費用などを誰が持つかというハードルがあるが、これを解決できれば、両チームにとって歴史的な練習試合が生まれることになる。 場所がどこであろうと、日本の次のアジア代表国としてワールドカップ出場を目指す国の代表チームとの試合は、リーグワンの若手選手、ディビジョン2、3の選手たちにとっても、思い出に残る試合になるはずだ。試合後の交流を通じて絆を育み、日本の選手がその後旅行などで彼らの国を訪れることになったら、その日知り合った仲間たちは全力でおもてなしをしてくれるだろう。 アルダライ氏のアジアラグビーに対する熱き想い、そして日本ラグビーに対する願いは、「兄貴分としての役割を果たしてほしい」というものだった。 ラグビーを通じた国際交流の名のもとに、胸を貸してくれる兄貴分が日本から現れることを願う。 (文:竹鼻智)