NHKドラマPが語る「“女性の生きづらさ”を描くドラマが増えた」訳 話題作「燕は戻ってこない」を制作した背景
そして、登場人物に想いを馳せても、各々の簡単には割り切れない想いが伝わってくるドラマになっている。 「さまざまな立場の人の色んな想いを、きちんと丁寧に描こうと思ってやっています。この人が絶対に正しくて、この人は完全な悪者、という簡単な見え方にはしたくない。そもそも人間ってひと色じゃないですよね。脚本家の長田育恵さんが、そのあたりを描くのがとてもお上手なんです。 前回ご一緒した『らんまん』でも、神木隆之介さん演じる主人公・槙野万太郎の素敵なところだけでなく、ダメな部分も容赦なく描きました。万太郎に立ちはだかる、要潤さん演じる田邊教授も、一見すると“敵役”ではあるんですが、悪い部分だけではなく、どんなことを考えているかまで描くことで、深みが出たと思っています。
人間の善いところも嫌なところも両方を表現できるのは、ドラマなどフィクションの強みだと思っています」 ■「私の代わりに言ってくれている」作品 近年、特にSNS上では「登場人物に共感できたかどうか」という観点でその作品の良し悪しを断じるような傾向もある。だが、『燕は戻ってこない』は、「100パーセント共感できる!」といったような簡単な人物造形にはなっていない。 「放送後の視聴者の方の感想も『基のここの部分は好き』『理紀のここは共感できる』といったものが多くて、自分の心の中で咀嚼し続けてくれているように感じます。私は、優れたフィクションというのは新しい自分を発見させてくれる側面があると思うんです。自分では気づいていない自分の感情や考えに気づかせてくれるものだと」
板垣さんは、この原作を読んだときにも、その感覚を得たという。基は自分の遺伝子を残すことを欲し、不育症と診断された妻をときに傷つける。基の母である千味子は、息子にできる限り“良質な”代理母をあてがおうとし、ときに「クーリングオフできないの?」と言い放つ。ともすれば優生思想にも繋がってしまう可能性をもつ感覚でもある。 「基や千味子は、仮に二分するなら、悪者にされがちな登場人物だと思います。でも、私はこの2人に触れながら『自分の遺伝子を残したいと願うことはそんなに悪いことなんだろうか?』とか『高額なお金を払うとなったら、私だって相手を選ぼうとしてしまうかもしれない』と感じたんです。そういう考えが自分の中にもあったことに気づいたのは、この作品に出会えたからこそのものですね」