NHKドラマPが語る「“女性の生きづらさ”を描くドラマが増えた」訳 話題作「燕は戻ってこない」を制作した背景
■「答えの出ない問題」を描く必要性 2022年の発売当時、原作を読んだ板垣さんはすぐにドラマ化に思い至ったという。 「原作の登場人物全員が魅力的で、とても面白く読みました。そのうえで、命というのは普遍的なテーマである一方、生殖医療の進歩と問題点というのはすごく今日的なテーマだな、と。 2022年には不妊治療の保険適用範囲が広がりましたし、注目度の高いテーマです。NHKでは『なぜ“今”これを放送するのか』ということが問われるのですが、その点でも、“今”放送するべき作品だと思いました」
代理母や卵子提供・不妊治療の話など、簡単には答えの出ない問題が題材となっている。 「簡単に答えが出てしまう問題よりも、考え続けないと答えが出ない問題こそ、人間が考えなきゃいけないと思うんです。最近の世の中は、簡単に白黒つけたがったり、すぐに悪者かどうかをジャッジして糾弾したりする傾向があると感じていて、それに怖さを感じていました。 人間の命という重たいテーマを前に、『自分もこの人の立場だったらこう考えるかもしれない』と想像力を働かせるきっかけになればと思っています」
たしかに、何かを押し付けるようなドラマではない。視聴者としては、ドラマに限らず、公共放送であるNHKが何か新しい価値観を取り上げると、それが“正しい”と押し付けられてしまうのではと危惧してしまうところがある。 同作も、「生殖医療に関する新しい価値観を押し付けられるのか?」と構えて見始めたところ、それはすぐに杞憂だと気づいた。 「“社会派ドラマ”と言ってもらえることも多くて、もちろんその側面もあるんですが、私としてはエンターテインメントが根本の“人間ドラマ”を作っているつもりなんです。
特定の価値観の押し付けになっていないと言っていただけるのは、原作がそうなっていることはもちろん、NHKでは『公正・公平』を大事にしていて、私たちがそういう教育を受けてきたという影響もあるのかもしれません。 このドラマは、複雑な人間の心理描写をしているぶん、嬉しいシーンと悲しいシーンを簡単に区分けすることが難しく、どんな音楽をつけるかもとても悩みました。作曲家のEvan Callさんが色んな解釈ができる音楽を作ってくださり感謝しています」