なぜ32歳の高橋大輔は4年ぶりの現役復帰を決意したのか?その意義と人生観
2008年に右膝前十字靱帯断裂の手術を行い、その古傷の影響が完全になくなっているわけではなく、膝周囲の強化も含めて、前の現役時代には封印していた筋トレを取り入れている。 「ダンスをやって体に変化もある。今までやらなかった筋トレを入れだして、別の体で現役に向かっているという感覚がある」 さらなる追い風もある。4年に一度のルール改正だ。いきすぎた4回転時代に歯止めをかけるような男子フリーの演技時間が4分半から4分に縮まり、ジャンプは7本に制限、出来栄え点の幅も広がり、表現力を重視するような新ルールとなった。 「たまたまのタイミング。4分、7本は楽なことはない。4分になって逆にしんどい。休むところがないというか。出来栄えも、元々、ジャンプのランディングとか下手だったので影響は受けないでしょう。ただルールが変わって、フレッシュな気持ちで挑めればいい」。高橋氏は、それを追い風とは考えていないようだが、新ルールの象徴のようなスケーターになるのかもしれない。 「失うものは何もない」とも高橋氏は言った。 だが、その輝かしい過去の栄光に傷をつけてしまうという危惧もある。 高橋氏は、2006年のトリノ五輪から3大会連続で五輪に出場して、バンクーバー五輪では日本男子初の銅メダルを獲得、世界選手権では2010年に優勝し、グランプリシリーズでは、ファイナルを含む通算9勝を挙げ、全日本で5度チャンピオンになるなど、日本フィギュア界を牽引してきたのだ。 それでも高橋氏は「そのリスクもあると思うが、そういったリスクより、表現という部分は、年齢関係なく成長し続けるものだし、今の方が素敵だと思ってもらえるようになりたい」と、ポジティブだ。 「将来的に、スケートというものの中で、パフォーマンスで生きていきたい。限界を感じるまでスケートをやりきりたい」 ノーフィギュア、ノーライフ。そんな人生観を体現するような高橋氏の異例の挑戦。10月5日から兵庫県・尼崎スポーツの森で行われる近畿ブロック選手権が、その前代未聞の挑戦の第一歩となる。