伊集院静<大人の流儀>。「人生は総じて割に合わない。そういうことを平然と受け入れて生きるのが大人の男というもの」
2023年11月24日に作家の伊集院静さんが永眠されました。『機関車先生』『受け月』などの数々の名小説を残した作家でありながら、『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などの名曲を手掛け、作詞家としても活躍しました。今回は、伊集院さんの名言が多数収録された『風の中に立て ―伊集院静のことば― 大人の流儀名言集』から、ユーモアがありながらも人間を見つめる深い眼差しが秘められたエッセイを、一部紹介します。 【写真】伊集院静さん * * * * * * * ◆登り坂と下り坂 目の前に登り坂と下り坂があったら、一度は(いや二度でも三度でも)自分から選んで登り坂を歩きなさい。 どうしてそんな辛い、苦しいことをしたほうがイイと言うのか。変でしょう? でも登り坂を歩きながら、少しだけ息苦しさもある中で、もう一歩、いやもう一歩登ってみましょう。 きっと何かが、そこにあるかもしれないから……。
◆やってみなければ見えないもの むかい風に立っていると、誰かの声が聞こえる時があるそうです。 「頑張れ。少し見えづらいが、目を開いてごらん。何が見えますか?」 見えたものは十人十色、皆違っているそうです。でもたしかに何かが見える気がします。 私たちの生きていく道は、やってみなければ見えないもの、出逢うことがないものがたくさんあります。
◆何もモッテナイ、のが若者 私も仲間も何ひとつ手の中にはなく、それでも何とかできたのは、何もモッテナカッタからに他ならない。 人が人を敬うのは、その踏ん張りであり、人が人を蔑視しないのは、それを知っているからだ。 「人生というものは総じて割には合わないものだ」 そういうことを平然と受け入れて生きるのが大人の男というものだ。 じゃ周囲を見回して、大人の男たちがきちんと生きているか。 ---だろう……。 まともなのは10人に1人か2人だ。 この頃は世の中がおかしいから? そうじゃない。昔からまともな大人というものはごくわずかしかいないのが世の中なのだ。
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