VWの労働協約が合意。大規模な工場閉鎖は免れるも、ゴルフはメキシコ生産に。賃金では労組が大きく譲歩
ふたつの工場は実質閉鎖、主力工場の生産能力も削減
日本はホンダと日産の経営統合の話題で沸騰中ですが、2024年9月から4カ月にわたって交渉を続けてきたフォルクスワーゲン(VW)と同社労使協議会及びドイツ金属労働組合(IGメタル)の労働協約交渉が、5日間70時間にわたるマラソン交渉の末、先週金曜日(2024年12月20日)に合意に至りました。経営側、労組側ともに譲る気配を見せず2回の警告ストライキもあり、「大規模ストライキ突入」も不可避かと思われましたが、ドイツ自動車産業の直面する厳しい環境下で組合側が予想以上に譲歩した形で決着しました。組合側は今回の闘争が2025年まで長引くことの悪影響を考慮、経営側も1日のストライキで1億ユーロ(160億円)の売り上げ損失とされる業績への影響を避けるべく、リストラのペースを少し緩めたと形で決着したと言えるでしょう。合意の内容の詳細を見てみます。(写真は50年間ウォルフスブルグのVW本社工場で生産されているゴルフ) 【写真】フォルクスワーゲンの施設、ゴルフやTロック カブリオレなど 経営側は今回、ドイツ国内の生産能力は50万台過剰で3カ所以上の工場閉鎖もやむなしと主張していました。合意では大型工場の「閉鎖」こそありませんが、従来より存続が危ぶまれていたドレスデンとオスナブリュックの2工場は2年半以内に生産を終了します。現在少量のVW ID.3(EV)の最終組み立てを行っているドレスデン工場は2025年末で操業を終え、自動車生産以外の用途を探ります。 また、ポルシェ ボクスターやケイマンの超過生産分やVW Tロック カブリオレなど少量モデルを生産しているオスナブリュック工場は、2027年半ばまでTロック カブリオレの生産を続けるも、その後の用途については今後検討となりました。 より影響の大きいのは、MEBプラットフォームによるVWとアウディのEVを専門に生産している東部ザクセン州のツヴィッカウ工場で、ID.4の生産がドイツ北のエムデン工場に、ID.3とセアトのクプラEVが本社のウォルフスブルグ工場に移管され、アウディ Q4 e-tronのみの生産となります。同工場は生産台数(2023年、24万7000台)の半分以上を失うことになり、浮いた設備はリサイクルをはじめとする循環経済のために活用されます。 ウォルフスブルグ工場にも大きな変更があります。ゴルフ8.5といわれる現行のゴルフ/ゴルフヴァリアントの生産は2027年からメキシコのプエブラ工場に移管され、4本ある生産ラインのうち2本を休止します。2029年以降導入となる新たな統一EVプラットフォーム(SSP)によるゴルフEV(通称ID.Golf)が加わりますが、それまでの間はティグアンとタイロンという2つのコンパクトSUVとツヴィッカウ工場から移管されるID.3とクプラの生産になります。 2023年に49万台を生産した本社工場の生産の約半分を占めるゴルフが2年近く空白になれば、従業員6万人に大きな影響がおよぶのは必至です。また、ウォルフスブルグの開発人員も2030年までに4000人削減されます。 経営側は、今回の措置で2030年までに3万5000人の人員と73万4000台の生産能力を削減できると発表しています。人員は自然減と早期退職などで可能としても、2つの工場閉鎖と生産移管だけでは70万台を超える生産キャパシティの調整には足りません。ドレスデン工場とオスナブリュック工場でせいぜい1~2万台、ツヴィッカウ工場が半減するとして12万台、ウォルフスブルグ工場が30万台としても計算が合わず、他の工場でも車種の移管にともない生産能力の削減があるはずで、その点は今後明らかになっていくでしょう。