【F1分析】速いチームがコロコロ変わる。実に難解だったラスベガスGP。鍵はもちろん”タイヤの使い方”だけど……
■パフォーマンスに違いを生んだ、様々な要因
このグラフは、F1ラスベガスGP決勝レース中の上位のドライバーのパフォーマンス推移だ。第2スティント(グラフ上赤丸の部分)は、フェラーリ2台とフェルスタッペンのパフォーマンスはほぼ同一だ。 しかし第3スティント(グラフ上青丸の部分)では、フェルスタッペンがフェラーリ勢から大きく後れをとっている。また、第2スティントでは大いに苦戦したランド・ノリス(マクラーレン)が、フェラーリと同等かそれ以上のペースで走った。特に最終スティント終盤のフェルスタッペンはタイヤの性能劣化に見舞われ、大きくペースを落としているのが分かる(グラフ緑丸の部分)。 このように、各チームの勢力図がレース中に大きく変わった理由は、ひと言では説明できそうもない。 フェラーリのフレデリック・バスール代表は、タイヤが酷く消耗した後、レース後半に改善したことについて尋ねられた際、次のように語っている。 「それがフェラーリだからなのか、ドライバーによるものなのかは分からない。条件の組み合わせによるものだ」 「ドライバーの間で、マシンのセットアップだったり、コンパウンドをプッシュしすぎてしまったりした場合には、2番目と3番目のスティントを見れば分かるように、全員が同じコンパウンドにもかかわらず、パフォーマンスに違いが出る」 「マシンだけの問題ではなく、燃料搭載量やスティントの始め方にも関係しているということだ」 「最初の2~3周で少しプッシュしたドライバーは、少し保守的に走り始めたドライバーよりもグレイニングがずっと大きかった」 グレイニングとは、タイヤが十分に温まらず、適切なグリップ力を発揮できずに接地面が削れてしまう状態を指す。これを避けるためには、タイヤがしっかりと温まる前に無理にプッシュしないことが大切。そのため、最初の数周でプッシュしすぎないことが重要になってくるわけだ。 ただ今回のラスベガスGPは気温と路面温度が低く、タイヤを温めるのが難しかった。しかもタイヤが変形する高速コーナーもほぼないコース……タイヤを温めるためには、ゴムをしっかりと揉むように動かし、内部から発熱させねばならないとされるが、それができるコーナーがあまりないのだ。加えて長い直線があるため、タイヤが冷えてしまう。一説には、ラスベガス・ストリップの2kmにも及ぶストレートでは、35度も冷えてしまう状態だったらしい。そういう様々な条件により、タイヤの扱いが難しかったということであろう。 そんな中で”なぜか”メルセデスは、しっかりとタイヤを扱うことができ、グレイニングにもほぼ悩まされなかったという。その上、路面のバンプが少なかったために車高をギリギリまで下げることができ、力強いパフォーマンスを発揮することができたようだ。 そういう意味では、F1の難しさが詰め込まれたグランプリだったと言えよう。そしてこういうことが時には起こりうるというところが、F1の面白さと言えるかもしれない。
田中健一