カナダでミシュラン2つ星を獲った鮨職人・齋藤正樹の流儀「カウンターでYouTubeを観始める客には二度と来なくていいよって伝えます」
トロントの「Sushi Masaki Saito」で鮨を握る齋藤正樹さんは、いまカナダで最も有名な日本人シェフだ。後編では、カナダの客層や現地で心がけるサービス、今後の野望を聞いた。 【前編】北海道生まれ。NYで成功し、カナダ初のミシュラン2つ星を獲った鮨職人・齋藤正樹とは?
2022年、カナダ初のミシュランガイドがトロントで始まった。初年は13軒、2023年は15軒のレストランが星を獲得。唯一、連続して最上位となる2つ星をとったのが、齋藤正樹さんがオーナーシェフを務める「Sushi Masaki Saito」だ。いまカナダで最も有名な日本人シェフがカナダに渡った理由、なぜ成功できたかを聞いた前編に続いて、後編では、カナダの客層や現地で心がけるサービス、今後の野望を聞いた。
日本とカナダの客層の違いとは?
「Sushi Masaki Saito」はトロントで数少ない予約困難店だ。客層は、「お金を一生懸命貯めて1年に1回来てくれる人もいますし、カナダの経済を回しているトップ中のトップもたくさん。欧米系と中華系が半々くらいですね」とのこと。アジア圏の人の方が、もとの距離が近く日本での経験値がある分、鮨をよく知っている率が高いとか。 高級な江戸前鮨を提供しながらも、緊張感をもたせないのが齋藤さん流。客側のテンションも性に合っていた。 「そもそも喋っていいの? みたいな鮨屋もあるじゃないですか。かなり凛とした空気というか。僕は銀座で働いていた時、それが嫌で海外に行こうと思ったんです。“お客様は神様です”みたいな文化もどうかと思って。海外で富豪たちに鮨を握った時に、どう考えても有名な人が、“ありがとうございました! シェフ!”とリスペクトを伝えてくれる。でも、日本の大したことない金持ちでよくあったのは、“ああ、ありがと”みたいな感じ。鮨職人としてどっちに鮨を握りたいかって考えた時に、やっぱり前者でした」
リスペクトの伝え方は、「ひと言でもいい」。 「違う国の人間が、発音がぐちゃぐちゃでも、“ありがとうございました”と言ってくれたら、日本人の僕としてはうれしい。逆にフランス語で“ボンジュール”って僕が言ったら、フランス人は若干うれしいだろうなと思っています。だって、相手の土俵にまったく違う土俵の人間がのぼるって、よほど勇気があるか陽キャじゃないと出来ない。ある程度の戦いというか、仕事をくぐり抜けて来た人たちだから、リスペクトを表す余裕があるんでしょうね。 お辞儀をする人もいますし、知っている日本の文化を伝えてくれたり、毎回“いただきます”と言ったあとに食べる人もいます。人によりますけど、僕は欧米のお客様には恵まれています。ただ、彼らはプリテンドしたりもするので、実際は思っていることとやっていることは違うかもしれない。だから100%鵜呑みにしているわけではないですけど、態度を見て、この人にはよくしてあげたいなって思います」 代わって、日本ではまず遭遇しない客層に出会うこともある。 「口悪いですけど、アホな客が来ることもあって、そういう人はお客様だと思ってないです。二度と来なくていいって態度をしますし、二度と来なくていいよって伝えます。例えばカウンターでYouTubeを観始めるとか。そういう客って、親のお金で生きている赤ちゃんみたいな人で、やりたいことをやってしまう。ご飯を食べながらYouTubeを観て育ってきたから、それが普通だと思って人前でもやる。お金は持っているけど心が貧しいんですよ。食材やシェフへのリスペクトが一切なくて、だから食べ方や所作が汚いですよね」 なお、YouTubeを流された場合、「アホとアホが並んでいたら止めません(笑)。でも隣にいいお客様がいて、アホなことされたら出します」と、毅然とした対応をとる。