カナダでミシュラン2つ星を獲った鮨職人・齋藤正樹の流儀「カウンターでYouTubeを観始める客には二度と来なくていいよって伝えます」
輸送のハンデを埋めるのは、先を読むサービス
「一番ありがたいのは、日本でいい鮨を食べたことがあるのに、“ここの方が美味しい”と言ってもらえること」と齋藤さん。 「本当は物理的に日本に勝てない。日本でトップクラスの魚を取り寄せても、1日半~2日のハンデがあってのスタートで、魚にストレスがでます。熟成の手当てに何が必要かというと鮮度なんですよ。矛盾に聞こえますが、めちゃくちゃ鮮度のいい魚を熟成させるから旨くなるんです。そこが一番のハンデで、時差を経て熟成を始めるので、熟成日数も2週間が限界。でも、物理的に日本には勝てないなかで負けないように考えています。レベルの高い日本の鮨をこの場で展開するのがコンセプトなんで」 塩や酢での締め方で調整するなどの技術はもちろん、心理面からも満足度を上げる。 「綺麗な内装だとか、匂いや音、いいサービスがあれば、それらが補助輪となって5点満点中4点だったものを4.5点ぐらいに持っていけるんですね。心理学です。鮨を食べたいと思って鮨屋に行って、旨い鮨が出てきたら満足ですし、不味かったら“なんだこの店”ってなるじゃないですか。お客さんのマインドってそれだけなんですよ。予約する段階で、接客が悪かったら嫌だ、玄関が汚かったらどうしよう、音がうるさかったら…って心配する人はいない。だから、もしそうだと要らない情報を与えることになります。まずはその辺を絶対にばっちりさせなきゃいけない。マジックではないですけど、本来の飲食店のサービスの姿が、0.5ポイントぐらい効いてくるわけです」 人によっては0.5ポイントより大きいかもしれない。 「人って自分がやりたいと思ったことが叶えばもう満足。なんでもそうですよね。寝るタイミング、食事のタイミング、自分がやりたいと思ったことを1秒でも早くできた方がみんなうれしいわけです。その手が届くか届かないかってところに、僕らが初対面でも気づけるか。 例えば、3分後に誰がお手洗いに行くかなんて分からない。でも、僕は80%ぐらい分かるんですよ。行動心理学ですね。だから、普通はお手洗いがどこか聞いたり探したりするのがファーストアクションですけど、その時にはもう椅子を引いて、あちらですって誘導する。お水を飲みたいと思った瞬間に出すとか、そういうのを普段からみんなに言っています。想像の範疇外のことをすると、“こいつすげえ”ってカウントされて、それを与えられるほどに感動に繋がります」