がんになった緩和ケア医の告白 「痛み出したらすぐに痛み止めを」と伝えていたのに我慢してしまった理由
がん治療で痛みを我慢することは大きなマイナス
患者さんのなかには痛み止めを飲まずに済むなら、その方がよいと考える人もいらっしゃるでしょう。その気持ちも理解できます。 でも、あらかじめ痛み止めを飲んでよい間隔を医師は定めており、そのルールを守って飲む分には問題ありません。 痛みを我慢する時間は治療において大きな損失です。 痛みのつらさから解放されることで、がん治療をがんばれる。その結果、実際にがんの腫瘍が縮小して経過観察となる人だってたくさんいらっしゃいます。つまり、がん治療中のときから、身体的なつらさを緩和することで治療も最大限よい効果を発揮できるようになるということです。 ですから、薬を医師から処方されている方は、痛いときにはすぐに飲むようにしましょう。痛み止めをもらっていない方は、すぐ医師に相談してください。 また、痛み止めの薬を申し出ないともらえないという問題については、事前に1回分だけ先にもらっておけば解決します。痛くなったときにすぐ飲みたいからと話せば、処方してもらえることが多いはずです。 私自身、上記の方法で夜中の痛みを防ぐことができて、熟睡できるようにもなったのです。これによって心身の調子も健康に保つことができて、問題なく退院することにつながったと感じています。
痛みの“火の手”が燃え上がらないように早めに対応する
さらに痛み止めを使うときにポイントとなる考え方があります。 痛みの治療は火事に例えて考えるとわかりやすいのです。皆さんは火事が起こったら、すぐに水をかけようとしますよね。すぐに消防車を呼ぶはずでしょう。 痛みは火事と同じです。火事が生じたら、すぐに水をかけるのと同じように、痛みが生じたらすぐ痛み止めを使った方がいいのです。すぐに水をかければボヤ(軽い痛み)で済むはずです。
しかし、患者さんの多くは、痛みの場合はボヤで済まそうとせずに、水をかけずにジっと我慢してしまうのです。それでは火の手は燃え広がって、痛みを鎮火するのにも時間がかかってしまいます。ですから、大切なのは痛み止めを使うタイミングです。火事と同じように、ボヤで済ますように痛み出したらすぐに使用しましょう。 また、痛みの対処への応用編に痛みを予防するという考え方があります。これから痛みが予想されるタイミングで、前もって痛み止めを飲んでおくのです。 例えば、腰が悪い方は外出して歩いていると痛くなるかもしれません。そういった場合は、外出の前に前もって痛み止めを飲んでおくとよいでしょう。こうすることで火事が起こっても最小限で済み、そしてなによりやりたいことを痛みなくできるようになるのです。 一般的に医療用麻薬のレスキュー(頓用)で用いられる薬、具体的にはオプソ、オキノーム、ナルラピドといったものが有名ですが、これらは30分前に服用するとよいでしょう。 痛みは、身体が発している危険信号です。特に新しい部位の痛みが出てきたときは、身体で別のなにかが起こっているサインかもしれません。その場合は医師にすぐ相談してください。痛みをやり過ごさないでください。 廣橋猛(ひろはし・たけし) 永寿総合病院がん診療支援・緩和ケアセンター長、緩和ケア病棟長。2005年、東海大学医学部卒。三井記念病院内科などで研修後、2009年に亀田総合病院疼痛・緩和ケア科、三井記念病院緩和ケア科に勤務。2014年から現職。病院での勤務だけでなく、浅草にある野中医院にて在宅医療にも携わる。病棟、在宅とふたつの場で切れ目なく緩和医療を実践する「二刀流」緩和ケア医。主な著書に『素敵なご臨終 後悔しない、大切な人の送りかた』(PHP研究所)、『がんばらないで生きる がんになった緩和ケア医が伝える「40歳からの健康考え方」』(KADOKAWA)がある。 協力:あさ出版 あさ出版 Book Bang編集部 新潮社
新潮社