JR東日本「値上げ」は都心に近いほど割高感大きく 山手線の通勤定期1か月「東京-新宿」1550円アップ
「幹線」に統合される影響は大きい
交通系ICカードで、「幹線」と「電車特定区間」「山手線内」の違いを見てみよう。交通系ICカードでは「幹線」は1~3kmまで147円、4~6kmまでが189円、7~10kmまでは199円となっている。「電車特定区間」「山手線内」では、1~3kmまでが146円、4~6kmまでが167円、7~10kmまでが178円だ。 これを「幹線」に統合し、1~3kmまでが155円、4~6kmまでは199円、7~10kmまでが209円となる。 都心部を10km乗車する場合には、31円もの値上がりになる。わかりやすくいえば、東京駅から品川駅まで乗車する際に、178円だったものが209円になるということだ。 東京駅から主要駅までの値上げ状況を見てみよう。新宿駅までは208円だったものが253円になり、45円もの値上げになる。上野駅までは、167円だったものが199円になり、32円の値上げとなる。けっこう上がる。 通勤定期1か月で見てみる。東京駅から品川駅は5620円から6240円に、620円の値上げ。東京駅から新宿駅は、6290円から7840円に、1550円の値上げ。東京駅から上野駅は、5280円から5890円に。610円の値上げである。 単に値上げだけではなく、「幹線」になることで大きな影響となる。都市部の運賃のメリットがなくなっていき、都市生活者は困ることになる。 これまでの運賃体系は、「電車特定区間」「山手線内」があることで、乗客の多い都市部は安いということになっていた。その状況が悪化してしまう。 加えて、私鉄などとの競合がある「特定区間」を12区間だけ残し、18区間を廃止にする。たとえば品川~田浦・横須賀・衣笠・久里浜など、京急との競合区間だ。新宿~八王子といった区間は残す。競合関係が薄れたところは事情に応じて廃止していくことになる。
JR東日本の論理、乗客の論理
JR東日本が、なぜ値上げをしようとなったのか。 まずJR東日本は、消費税増税のとき以外、会社発足以来運賃を値上げしてこなかった。同社の発足は、1987年4月1日である。元号でいうなら昭和62年だ。2026年春に運賃を改定するなら、39年間運賃を変えなかったことになる。国鉄の末期から変わっていないのだ。 しかし、変えない期間が長すぎた。 JR東日本発足以降、利用者増や生産性の向上、財務体質の改善など経営努力を積み重ねてきた。しかしコロナ禍による鉄道利用の減少や、物価やエネルギー価格の高騰に寄る経費の増加の影響は大きく、地方路線での沿線人口の減少(これで利用者が減る)が課題であり、待遇改善のための人件費向上が必要になってきた。 安全やサービスにお金をかける必要があり、老朽化した車両や設備の更新も求められ、災害対策やカーボンニュートラルに対する設備投資の財源も確保しにくくなっている。 サステナブルに鉄道を運営したい、というのがJR東日本の考えである。 いっぽう、乗客の側からすると「なんで値上げ?」となる。JR東日本は都市部の非鉄道事業で利益を上げており、また山手線など通勤電車の本数を減らして経費を削減している状況にある。さすがに山手線の減便は批判されており、2025年3月のダイヤ改正で増発するとのことである。 通勤定期は職場が負担するからいいものの、企業が従業員に支払う額は大きくなり、総務担当者はその資金をどこから持ってくるかを考えているのではないか。 通学定期については、私鉄などが運賃を値上げしても値段を上げない方針を示している中で、JR東日本の「電車特定区間」「山手線内」が「幹線」になることで値上げとなり、負担する親が困るという問題もある。 定期券の割引率は高いものの、そこを見直すことの影響は大きい。 JR東日本の置かれた状況が厳しいゆえに、ドル箱の都市部運賃制度を変えなくてはいけなくなり、結果として値上げになる。大きな影響があるだろう。(小林拓矢) 筆者プロフィール こばやし・たくや/1979年山梨県甲府市生まれ。鉄道などを中心にフリーライターとして執筆活動を行っている。著書『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。