小塚崇彦 フィギュアスケーターからラリーストへ「臨機応変さが試されるのはスケートと一緒です!」
「ゴールした後にどっと疲れが出ました。競技中は気づかなかったのですが、大腿筋がパンパンに張っていました。無意識のうちに下半身で踏ん張っていたんだな、と思いました」 島田麻央&上薗恋奈&櫛田育良…フィギュア女子次世代エースたちの華麗なる「競艶」 元フィギュアスケート日本代表で、’10年バンクーバー五輪8位入賞、’11年世界選手権2位などの輝かしい実績を持つ小塚崇彦(35)。引退から9年が経つ彼が、新たな挑戦に踏み出した。 ラリー競技のチームである「マッスルラリー」の一員として、6月末に群馬県の渋川・伊香保で開催されたTGRラリーチャレンジにドライバーの指示役であるコ・ドライバーとして初出場し、見事完走を果たしたのだ。 「スピードスケートの五輪金メダリストである清水宏保さん(50)が、マッスルラリーのドライバーをしている縁で参加しました。今回タッグを組んだドライバーは、スピードスケート・ショートトラックで4度五輪に出場した寺尾悟さん(49)。僕はいま選手時代から所属していたトヨタ自動車の社員として、スポーツのイベントを作る部署で働いています。現場をこの目で見ることが大事だと考えたことも、挑戦した理由の一つです」 トヨタ自動車の会長で、自身もラリーに出場している豊田章男氏(68)にも、「ラリーは良いぞ」と直接声をかけられたという。 コ・ドライバーは、コースの状況を事前にチェックし、それを細かく「ラリーノート」に記録。そのノートをもとに、走行中のドライバーに助手席からコースの構造やカーブの曲がり方などを伝えるのが主な仕事だ。 「ラリーノートは楽譜、車内ではコ・ドライバーは、指揮者のような存在なのかなと感じました。指揮者の方もそれぞれの個性をもって指揮棒を振りますよね? でも、素晴らしい演奏家たちが集まっても、息が合わないとバラバラな演奏になってしまう。指示を読み上げるタイミングも大事で、責任重大でした」(小塚氏) 午前中の走行はカーブでタイミングが合わない場面があったが、午後の走行では見事に修正。 「僕も寺尾さんも一気に集中力と連携が深まりました。走っていて、お互いの息が合っていくのを感じました」 と小塚氏は笑顔を見せた。 フィギュアスケートでの経験は、ラリー競技に活かされているのだろうか。 「氷の状態を見て対応していくことと、ラリーコースにある予測不能な障害物に対応し、その中でギリギリを攻めていくことは似ていると感じました。どちらも臨機応変な対応力が求められますが、その緊張感が楽しいんです。また、急カーブを曲がることの多い車内で、手元のラリーノートを見続けられたのもフィギュアをやっていたからかもしれません。スピンで回転には慣れていたので、三半規管が鍛えられていたのかなと(笑)」 競技者としてスケートを辞めた決め手となったのは、股関節の故障だった。骨が壊死しているため完治は難しく、引退後の今も痛みと付き合っている。 「今もスケートはしていますが、体力維持のために少し滑る程度。激痛で歩くのがやっとの日もありますが、股関節への負担の少ないラリーに参加することで『スポーツを続けられているんだ』と実感できた。今後2年間のうちに10試合に出場・完走して、WRC(世界ラリー選手権)の出場資格を取るのが目標です」 正確かつ滑らかな演技が持ち味だった小塚氏。ラリーの世界でも、流れるような走りを見せてくれるに違いない。 『FRIDAY』2024年8月9日号より
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