「サマンサタバサ」「ANAP」「CECIL McBEE」平成ギャルファッションを牽引したブランドたちの現在地…低迷する企業から見えてくる共通点とは?
低価格路線が進行して原価率が上がったANAP
ANAPのたどった道はサマンサとはやや異なる。 このブランドは「多品種少ロット」という特徴があった。消費者からすると、低価格でありながら選択の幅が広く、同じデザインが少ないために他の人と被ることもないというメリットがあったのだ。しかもANAPは手頃な価格で販売していたがゆえに、在庫の回転率を高めることができた。 これはギャル文化に支えられていた側面が大きい。よって、流行が終焉を迎えると、労多くして功少なしとなってしまう。 ANAPの2012年8月期の原価率は42.2%だが、2023年8月期は46.8%だ。ANAPはユニクロなどのファストファッション並の価格でアイテムを販売している。原価率が高まっているのは価格を下げていることによるものだろう。 ところが、ANAPの服はユニクロのように機能的でもなく、無印良品のように素材や製造プロセスにこだわっているわけでもない。ZARAやH&Mのようなトレンド感も薄ければ、niko and ...、GLOBAL WORKのような万人受けする普遍性もない。 ギャル文化のイメージが浸透してしまっており、今となってはターゲットも不鮮明だ。 サマンサタバサとANAPには共通する特徴がある。それは「顧客と向き合えていない」というものだ。 コナカの2026年9月期までの中期経営計画サマンサグループの事業戦略において、一番目に掲げているのが「オムニコマースの推進」というものだ。実店舗からECへのシフトを加速するというのである。
非上場化したほうが幸せではないのか
これはANAPも同じ。2022年4月に東京通信とライブコマース事業を行なう合弁会社を設立し、メタバース空間でショップを展開する新たな取り組みを開始している。 どれも販売チャネルや顧客へのリーチの仕方を変えるという話だ。 2社の課題は中価格帯の需要が減退していることやメインターゲットのニーズ・支出額が変化していること、競合のマス化によるシェアの縮小であって、EC化の遅れは要因の一つであっても主要因ではない。 必要なのはターゲットの年齢やニーズを見据えたリブランディングである。 この取り組みに先行しているのがCECIL McBEEだ。2019年にリブランディングを実施し、ターゲットを18歳から23歳に限定。さらにスマートフォンアクセサリーなどのアパレル以外のアイテムの売上構成比率を高める取り組みを実施した。服に固執せず、女性が今、身に着けたい、持ちたいと思うアイテムに的を絞ったのだ。 ターゲットをピンポイントに絞り込むというのは非上場企業らしいやり方だが、今のCECIL McBEEが20~30代に支持されるniko and...に勝つのは難しく、ましてやユニクロ、GUなどのマス向けブランドにはとうてい敵わない。 限られた市場で細く、長くということになるが、生き残りの戦略としてはそれは真っ当なものだ。 サマンサタバサは非上場後も上場企業コナカの傘下であり、ANAPは上場維持に向けた計画を立てている。 ファッション業界での再生という観点では、両社ともに完全なる非上場企業となったほうが動きが取りやすいと言えるのかもしれない。 取材・文/不破聡
---------- 不破聡(ふわ・さとし) 大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。外食産業、ホテル業界、映画・ゲーム、エンターテインメント業界など幅広く執筆 ----------
不破聡