「サマンサタバサ」「ANAP」「CECIL McBEE」平成ギャルファッションを牽引したブランドたちの現在地…低迷する企業から見えてくる共通点とは?
サマンサタバサは粗悪品を売っていたというのは本当か?
サマンサタバサは、超セレブを起用した大々的なプロモーションを行なっていたことで知られている。ヒルトン姉妹、ミランダ・カー、ビクトリア・ベッカム、マリア・シャラポワなど一流セレブがプロモーションのために日本を訪れていた。 国内のブランドでそのような宣伝活動が行なわれるケースは少なく、サマンサタバサが日本を代表するブランドの一つに育っていたことは衆目の一致するところだった。 ただし、派手な宣伝活動を行なっていたため、サマンサタバサには固定観念が付きまとうようになった。それが高粗利・高広告宣伝費というものだ。原価が安い商品を高値で売る目的で、巨額の広告費を投じているというものである。すなわち、低品質の商品に過度な広告をのせることによって高値で販売し、粗利率を高めることに成功しているというのだ。 しかし、この認識は正しくない。 サマンサタバサが隆盛を誇っていた2005年2月期の製造原価は40億9200万円。このときの売上高は98億4500万円で、製造原価は41.6%だ。アパレルの原価率は30~50%と言われている。サマンサタバサは極めて標準的な水準だ。 なお、この期の広告宣伝費は2億500万円ほど。売上高の2.1%に過ぎない。セレブを起用して大々的な宣伝活動を行なっていたからといって、過度な広告費をかけていたわけでもないのだ。つまり、ごく普通のアパレルブランドのビジネスモデルを踏襲していたことになる。 それでは、なぜサマンサタバサは凋落してしまったのか。その背景には、このブランドが得意としていた2~5万円という中価格帯の需要の減退が挙げられる。
婦人用支出額の6割が蒸発する事態に
ファッション情報メディアを運営するTOCREATEITの調査(「バッグに関するアンケート調査」)によると、バッグ購入予算で1万円未満と回答したのは66.2%。1万円以上3万円未満は25.6%に過ぎない。 さらに選ぶ際のポイントとしているのが、「色やデザイン」が25.4%、「サイズや収納力」が24.2%、「値段」が19.5%。「ブランド」は3.6%だ。消費者は1万円未満の手ごろな価格で気に入ったデザインのものを選び、収納力などの機能性を重視していることがわかる。 この傾向はファッション全体に当てはまる。 家計調査で単身世帯の婦人用洋服の年間支出額を見ると、2023年は1万2901円だった。2000年は3万2358円である。23年間で婦人用洋服への支出額の6割が消失したのだ。コストパフォーマンス重視の時代である。 現在の大学生においては、一万円以下で買えるキャンバス生地のトートバッグが主流だ。 そもそもブランド購入のハードルが上がっているため、背伸びをするのであれば「LOUIS VUITTON」や「Gucci」などのわかりやすいハイブランドを選択する。誰もが知っているブランドであるため、マウントが取りやすい(満足度が高い)からだ。いくらデザインが優れているとはいえ、2~5万円程度のサマンサタバサではコストパフォーマンスが悪いと感じてしまうだろう。 それであれば、サマンサタバサはかつてのように広告宣伝に力を入れてブランド価値を高めればいいと考えるかもしれない。しかし、ファッションアイテムの宣伝の難易度は劇的に上がっている。 電通の「日本の広告費」によると、2004年の雑誌の広告費は3970億円だった。2023年は1163億円である。1/3まで縮小した。その一方で、インターネット広告は1814億円から3兆3330億円と18倍に跳ね上がっている。 かつてはファッション業界と雑誌が流行を創出するのが当たり前だった。それがインターネット広告にとってかわられたことにより、「バッグ 1万円 20代向け」などと消費者の細かなニーズに応えなければならなくなったのだ。インフルエンサーも全盛期のセレブほどの影響力は持てず、サマンサタバサが得意としていたこれまでの手法が通じなくなってしまったのだ。