渡辺徹さん1周忌「何もなければずっと変わらないままだった」榊原郁恵が語るこれからの生き方
夫婦のたわいのない会話が1日の生活リズムを作っていたことに気づいた
――徹さんが亡くなってから、日々生活を送る中での変化を感じることはありますか? 榊原郁恵: 今ね、不思議なことに1日のけじめがつかなくなってしまったんですよ。結婚した当初、朝になってカーテン開けて「お父さん、朝だよ」って言ったときに、「なんでお前、朝だからって起こすんだよ」って言われたんです。それが、結婚して最初に「え?」って思ったことでした。 子どももいるから、朝の流れってあるじゃないですか。主人は結婚する前は自分中心の生活をしてきたわけなので、ドラマがあれば朝早いけど、なければ1日中寝ていてもいいという人。私が「朝だよ!」って起こしてしまったことで、ちぐはぐな感じになってしまったこともありました。 夜、主人は枕元で必ず本を読むんです。最近はデジタルで新聞とかも見られますから、iPadで何かしら見ていたんですよね。私は「もうお父さんいい加減にして。夜なんだから、寝るんだから」とか言いながら電気を消して、そういう会話で1日が終わっていたんですよ。 でも今は、朝だよって起こして「起こすなよ」って言われることもなく、夜に枕元でiPadを見ている人がいるわけでもない。お風呂はどっちが先に入るとか、もう早く寝て、とか言う人もいない。今まで当たり前にあった、1日の始まりと終わりの主人とのたわいもないやり取りが、今はもうないんですよね。 それでも、夜の1時くらいになると眠くはなるんですよ。だけど、この会話で1日が終わっていた、というのがなくなると、自分の意思で1日を終わりにしないといけなくなるじゃないですか。だから、いつまでも起きていることもできる。そのせいでめちゃくちゃ生活リズムが狂っていまして、苦労しているんです。主人が1日の生活のスイッチを入れてくれていたんだなって思いますね。
渡辺徹が繋いでくれた絆を私たちが受け継いでいきたい
――振り返ってみて、徹さんに伝えておけばよかったなと思う言葉はありますか。 榊原郁恵: 彼はものすごく繊細で、人のいろんなことをよく覚えているし、ちょっとした仕草や言葉の変化をしっかりキャッチする人なんですよね。実は、彼はテレビとかラジオとかいろんなところで、何かにつけて「郁恵のおかげですよ」って言ってくれていたんです。「本当に?」なんて私は言ってたけど、「そんな風に言ってくれてありがとうね」って一言でも言ってあげればよかったな。 楽しく夫婦生活を送っていましたけど、 いろんな彼の言葉をもっと素直に受け止めてあげられたらよかったなと思っています。 ――これから先、徹さんへの思いを胸に、どうやって生きていきたいと思っていますか。 榊原郁恵: 主人が今までみんなにしてきたことを今回知って、裕太と一緒に「お父さんってこんな人だったんだね」って、改めて気づきました。何もなければ、私はずっとこのままだったと思うんです。 だからこそ、渡辺徹さんからもらった最後の気づきをきちんと心に留めて、自分自身、変えられるところは変えていこう、と。主人がきっかけとなって、少しずつ変わりつつはあるんですけれど、やっぱり主人と同じようにはできなくて落ち込んでしまうときもありますけどね。主人が素晴らしいところは、できれば自分も取り入れて、真似していきたい。そして、渡辺徹が繋いでくれた絆を途切れることなく、私たちが受け継いでいきたいなと思っています。 (収録日:2023年6月7日) ----- 1959年、神奈川県出身。女優、タレント。1976年、第1回ホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリを獲得後、1977年に芸能界デビュー。歌手デビューをして以降、ドラマやバラエティ番組、舞台などでも活躍。1987年、俳優の渡辺徹と結婚し、2児の母となる。2021年には夫婦でパートナー・オブ・ザ・イヤー受賞。 文:中村英里 (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました)