予選落ちで「良かったじゃん!」 両親の教えと恩師との出会い/“たたき上げエリート”大西魁斗の歩み<前編>
ボクの戦いは学期開始1週間。どれだけ友達を作れるか
「将来自分のためにならない分野を勉強しても意味がない」。大学ではビジネスを専攻したが、人気の学部は特に優秀な学生が集まる。「同じ専攻のチームメートは頭の良い子がたくさん。卒業後はKPMG等のコンサルに勤めている人もいる」。ゴルフと学業の両立は覚悟した以上に大変だった。 「遠征が多いので、ボクの戦いは学期が始まってからの1週間。そこでどれだけ友達を作れるかで、遠征中の授業のノートをもらえるかが決まる(笑)。そのおかげで卒業できました」 遠征がない日も遊ぶ時間はない。「月曜から金曜までがチーム練習。朝5時45分に起きて6時5分に部屋を出て、コースに着いたら1番から18ホール。週2回はキャンパスに戻ってトレーニングを1時間。ボクの場合は月曜~水曜は12時~18時30分まで授業、そこから宿題。毎日深夜1時くらいまでやるので、基本はずっと睡眠不足でした」 厳しい分、ゴルフの環境は最高峰。チームが回れるコースには、PGAツアー「ジェネシス招待」会場の名門リビエラCCも入っている。「いまはローリングヒルズCCがメインコースで、トランプナショナルGC、たまにロサンゼルスCC。リビエラCCは、10~12人いるチームのうちトップ3にメンバーシップを渡しているんです」。リビエラを回れる特権のひと枠は、もちろんゲットした。
就職がよぎったスランプと、恩師との出会い
チームメートの一番手は、2023年からPGAツアーに本格参戦したジャスティン・サー(米国)。ゴルフ部では彼に次ぐ実績を残してきたが、スランプは突然訪れた。 「2年生はオールアメリカンにも入って人生で一番ゴルフの成績が良かったけど、“ちょっとスイングが違うな”と思っていたら3年で絶不調が来た。ゴルフをやめようかなって思うくらい」 ほぼ独学で作ってきたスイングは、違和感があっても直し方が分からない。一般企業への就職も考えたが、就職活動を始めるにはすっかり出遅れていた。 「みんな1年の夏からインターンシップ(在学中の企業研修)をやっていたけど、ボクは1回もやっていなかったし、卒業することだけを考えていた。まずいと思って金融系の会社の面接まで行ったけど、インタビューの日時が決まったとき、はじめて実感した。“就職じゃない、ゴルフをまだ諦めたくない”って」 その頃に内藤雄士コーチに出会った。きっかけは、同世代の友人・丸山奨王(ショーン)の父である丸山茂樹。「丸山さんとは10歳頃から一緒にゴルフをさせてもらうようになって、ずっと尊敬して憧れる選手。本当に人生どうしようと思っていた時、丸山さんに誘っていただいたバーベキューで初めて内藤さんと話しました」 不調を脱するのに必死だった。「良い時と悪い時のスイングを3時間くらいずーっと見てもらって。流れを全部説明したうえで答えをもらいたかった。周りにはバーベキューも豪華なお寿司も、おいしそうなご飯がたくさんあったんですが、スイングを見てもらうことに忙しくてほぼ食べていなかった。“やっとこのモヤモヤが出せる!”って(笑)」