西武117kgドラ1渡部健人は「おかわり君3世」でなく「欲張り君1世」…“巨漢本塁打王”の伝統を継承できるのか?
渡部としては「オカワリ」と「ヨクバリ」で韻を踏み、新人選手たちの家族も見守っていた会場内の笑いを誘うつもりだったのだろう。もっとも、予想に反して静まり返った雰囲気に「すみません」とすぐに機転をきかせて、ドラフト2位の佐々木健投手(24、NTT東日本)にマイクを渡した。 これで硬さが取れたのか。佐々木が「僕は渡部みたいに強烈なキャラはないんですけど」と切り出せば、同3位の山村崇嘉内野手(18、東海大相模高)も「自分は渡部さんのように身体が丸くないんですけど」と自己紹介。周囲を和ませる憎めないキャラクターも、渡部はさっそく発揮している。 慢性的な左腕不足に苦しんできた西武は、ドラフト会議で即戦力左腕の早川隆久(22、早稲田大)を競合覚悟で1位指名。実際にヤクルト、楽天、ロッテと競合し、当たりくじを楽天に引かれた。外れ1位で指名したのは投手ではなく、打者の渡部だったことは球界関係者を少なからず驚かせた。 先発マウンドを託せる即戦力だけでなく、長打力を備えた主軸候補も西武はドラフトのテーマにすえていた。中村に加えて、終盤戦では4番として打線をけん引した栗山巧も37歳とベテランの域に達して久しい状況で、山川や25歳の森友哉に続くスラッガーがなかなか台頭してこないからだ。 横浜スタジアムのバックスクリーンを直撃する超特大のアーチを放つなど、横浜市で生まれ育ち、日本ウェルネス高から入学した直後からレギュラーを担ってきた渡部のパワーは注目されていた。もっとも、発表された球団資料中の「これまでで一番苦労したこと」に、極度の不振に陥った3年時の1年間をあげた渡部は、最終学年を迎えて鮮やかな変貌を遂げている。
10試合に出場した秋の神奈川大学リーグで、シーズン最多タイの8本塁打、同新記録となる23打点をマーク。桐蔭横浜大の優勝に貢献し、MVPも獲得した打撃開眼に至った原点は中村のフォームを研究し尽くした末に会得した、フルパワーではなく8割の力に抑える脱力スイングにあった。 子どものころから夢見てきた、プロ野球選手を手繰り寄せるきっかけになったからこそ、会見で言及した「おかわり君三世」には本家へ抱く敬意も込められていたはずだ。もちろん二世は山川であり、あんこ体型の100kg超トリオがそろい踏みすればプロ野球の歴史でも異彩を放つ打線となる。 「自分は小さなころに西武ドームで、少年野球の試合をしています。すごく暑くて、自然がいっぱいだと思いましたが、こうしてまた試合ができることは、何か縁があるのかなと思っています。一日も早くこのユニフォームを着てホームランを打って、ゆっくりとダイヤモンドを一周したい」 2017年からはメットライフドームに名称が改められた本拠地との縁を思い出しながら、野球以外の特技を問われた渡部は本能に導かれるような答えで、会場の笑いを誘うことに成功した。 「特技といったものはないんですけど、自分は寝ることが一番好きなので、すごく寝ると思います」 50mを6秒3で走破する渡部は、同じタイムをもつ中村、富士大学時代に6秒2をマークしている山川とともに、自身の武器のひとつに俊敏性も搭載している。大学卒業まで大好きな野球を続けさせてくれた日本人の父、フィリピン出身の母へ捧げる感謝の思いを成長への力に変えながら、異色のルーキーはプロとして掲げる最初の目標として、すでに「開幕一軍」と書き込んでいる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)