お客様からかけられた「あなたここの社員?」この言葉で人生が変わった コロナ禍からV字回復を果たし、花で人を幸せにし続けている秘訣とは
人生を変えるターニングポイントになった言葉
旭鷹農園を引き継いだ父親が、広い畑に、春はチューリップ、夏はひまわりを植えて観光農園をするようになってから、3回目の春を待たずして病気で亡くなった。46歳だった。 「これから観光農園を軌道に乗せていこう」という時期だったため、後継者がいるわけでもない。そして、もともと経営していた養鶏場もある。もちろん父を亡くした悲しみもあったが、今後のことを思うと「もうどちらも続けていけないかもしれない。これから一体どうなるんだろう」という不安も強く、ショックが大きかった。 父が亡くなった後は、母が養鶏場と農園を継いだ。吉宗さんはしばらく大学を休み、落ち着いてからも、手伝いなどでちょくちょく実家に戻っていた。 大学2年生の春のこと。 チューリップ祭りで人手が足りず、アルバイトとして園内で接客をしていたとき「あなた、ここの社員の人?この辺りに住んでいるの?」と、一人のお客さんから声をかけられる。 眼鏡をかけ、赤い服を着ていたその年配の女性は、エプロンをつけ園内の入り口付近で作業していた吉宗青年に「あなた、いいところに住んでいるわね!」と、勢いよく話を続けてきた。 「本当に花がきれいだったわ!空気もおいしいし、空も広い。世羅の野菜もおいしいのよね。私、お米もよく買って帰るのよ」と、話が止まらない。 そのお客さんによると、農園に来るとき道に迷ったのだが、道を尋ねた近所の農家の人が軽トラックでわざわざ入口まで案内してくれたらしいのだ。 「本当に有難くてうれしかったわ!ここのお花を見に来てよかった。あなた、これからも頑張ってね!」 お客さんがこの農園だけでなく世羅の町まですごく褒めてくれるのを聞いているうちに、吉宗さんの胸の奥がじんと熱くなってきた。それまではアルバイトということもあり、ただエプロンをつけて、漫然とレジを打つだけだったが、このお客さんの言葉を聞いているうちに心境が変わる。 「目の前の花畑を見て喜んでもらえて、自分の故郷のことも褒めてもらえる仕事って、すごく魅力的だな、と思ったんです。こんなふうに、お客さんが喜んでくれるのを目の当たりにできるんだったら、どんなしんどいことがあっても、やっていけるんじゃないかと、スイッチが入りました。それまで、とくに農園の仕事に興味を持っていなかったので、こんなにも心を動かされたことに、自分でも驚きましたね」と当時を振り返る吉宗さん。 そして大学卒業後、意気揚々と家業に就いた吉宗さんを待っていたのは、長い「スパルタ修行」だった。