日本人にもよく「わかる」…イギリス人はなぜ図書館を使わないのか、その「ミもフタもない理由」
図書館は「古い」というイメージが付く理由――設備がそもそも古い!
提供している活動が若者向けではないだけでなく、建物の老朽化と外観が、利用者の図書館に対する印象に大きな影響を与えている。多くの人(とくにやはり若い世代)が図書館の建物を「古く」「陳腐」「みすぼらしい」と形容し、外観や内装が現代的でないことが利用をためらう理由のひとつとなっている。照明が暗くて窮屈な空間、古びた設備、快適性の欠如、Wi-Fiの品質や利用可能なコンピューターなどの技術的インフラの不備……このあたりは日本の図書館でも同様の課題がある。 また、静かな学習スペースと子ども向けの活動スペースの両立が困難といった異なる利用者のニーズに対応できていない空間設計が問題視されている。これは日本では以前より解消されてきたと言える。 だが、同報告書で指摘されている車椅子利用者にとっての書架の高さや通路の幅、移動の容易さの問題、発達障害や社会不安を持つ人々には図書館の環境が過度に刺激的または圧迫感のあるものに感じられるという指摘には、日本の図書館もあまり応えられていないかもしれない。
予算(資金調達)の再検討が必要
ではどうしたらいいのか。 利用者中心の包括的なリデザインが提案されている。明るく開放的な空間、多様な利用者のニーズに対応できる柔軟な空間構成、技術的なアクセシビリティの向上、デジタル機器の貸し出し、オンライン学習リソースの提供、デジタルスキル向上のためのワークショップ、それからカフェスペースの設置や、コミュニティ活動に適した多目的スペースの創出なども図書館の魅力を高める提案として挙げられている。 日本ではしばしば明るく洒落たデザインの図書館が新設されると「本は日に当たると焼けるのに日光を入れる建物にするな」「手に取れないようなところに『映え』目的で本を飾るな」「図書館がカフェやカレーで客寄せするのは本質的ではないからやめろ」といった批判も起こる。 しかしボロボロの建物、検索端末として置いてあるのは20年以上前に買ったと思しきデスクトップPC、破けたソファ、壊れかけてやたらとうるさい空調……そういう図書館に進んで行く人が限られてしまうのは当然だ。新しくてきれい、居心地がいい場所のほうが無論、良い。 最近では日本の学校図書館でも、飲み物を飲んでいいスペースや、くつろいで話をしてもいいような座敷、ソファスペースを設けたり、ボードゲームやカードゲームの利用を許容または推奨したり、部分的に設備を新しくすることで利用者の増加を果たしている事例もある(従来の利用者とこれまでは未利用だった人とは共存できる)。 もちろん、それをするには予算が必要になる。同報告書では図書館の資金調達モデルの再検討も課題として挙げられている。 日本でも公立図書館予算を含む地方教育費は低迷しており、なかでも土地・建築費というインフラに関わる部分の減少幅が著しい――つまり修繕や立て替えがむずかしい状況に陥っている。図書館の人件費や資料費も1館あたりで見ると最盛期の6割程度となっている。 「たいして利用者が伸びない→市民の需要がないとみなされて予算が付かない→サービス向上も新しいこともできない→利用者が伸びない」という悪循環にハマってしまっている自治体も決して少なくはない。 しかし「できない」理由にばかり目を向けていても何も変わらない。「古い」という印象を払拭するような行動、整備、そして情報発信が英日いずれでも求められている。
飯田 一史(ライター)