「私たちはもっと戦争に動揺しなければいけない」武田砂鉄が自らの鈍感さを再認識した戦争の記憶とは?
もっと、戦争に動揺しなければいけない
自分は飢えを知らない。襲い掛かる影を知らない。明日が見えない今日が延々と積み重なる日々を知らない。 今、残念なことに、戦争や紛争の映像を繰り返し見せられている。病院にミサイルが直撃し、○名死亡と知らされる。打ちひしがれる家族の顔が映る。食事をしながらそれを見ている。かわいそうと思いながら、茹でたトウモロコシを「これ甘い」と言いながら食べている。自分の鈍感さにさえ慣れている。 安直な共感を猛スピードで発生させて消費するスイッチが自分の中にある。そんなスイッチを確認すると我ながらゾッとする。私たちはもっと、戦争に動揺しなければいけない。 こんな人がいたのだ。こんな人がいたことをずっと知らなかったのだ。
***** 武田砂鉄(たけだ・さてつ)……1982年生まれ。東京都出身。出版社勤務を経て、2014年からフリー。『紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす 』で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。他の著書に『わかりやすさの罪』(朝日文庫)、『偉い人ほどすぐ逃げる』(文藝春秋)、『なんかいやな感じ』(講談社)などがある。ラジオ番組のパーソナリティとしても活躍。 yom yom 2024年8月15日掲載
新潮社