眼鏡不思議話/執筆: 柴田聡子
眼鏡の生き霊みたいなものが目のあたりに取り憑いていたのかな?ライブ直前で壊れてともにステージに立てなかった無念……? そんなに眼鏡に愛されて……というかなんで愛された……? 愛しているから……? でも、悪くないなと思った。眼鏡かけとしては本望。外しても外しても眼鏡が顔に戻ってくる、無限に眼鏡が顔に浮かび上がってくる、そんな呪いにまかれていることはむしろ幸福かもと、こわさと戸惑いは眼鏡と離れられない運命のもとにある優越感にすがたを変え、何も見えなくてぼんやりした街を気持ちよく歩いて帰った記憶。
結局、イマジナリー眼鏡についてはなにも分からないまま、あとにもさきにも、眼鏡をかけていないのに眼鏡が見えたらしいのはこれが最後だった。あの日の出来事はいったいなんだったんだろうか。
プロフィール
柴田聡子 しばた・さとこ|シンガー・ソングライター/詩人。北海道札幌市出身。武蔵野美術大学卒業、東京藝術大学大学院修了。2010年、大学時代の恩師の一言をきっかけに活動を始める。2012年、『しばたさとこ島』でアルバム・デビュー。2016年、詩集『さばーく』を上梓し、第5回エルスール財団新人賞受賞。2023年、エッセイ集『きれぎれのダイアリー』を上梓。2024年、アルバム『Your Favorite Things』をリリース。 text: Satoko Shibata, edit: Fuya Uto
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