療養所発「ハンセン病文学」に触れる意義…入所者だった島比呂志ら創刊の同人誌、「訴える」思い今も
隔離・差別を経験した回復者が減少していく中、ハンセン病文学の再評価が進んでいる。作品の電子資料化や復刊が相次ぎ、作家の島比呂志(1918~2003年)の作品が読み直されている。22日の「らい予防法による被害者の名誉回復及び追悼の日」を前に、“生き抜く力”として紡がれ続けたハンセン病文学に触れる意義を考える。(後田ひろえ) 【写真】断種、堕胎を強いた国に対し謝罪を求め不自由な手で原稿用紙に向かう島比呂志さん(北九州市の自宅で)
国立療養所・星塚敬愛園(鹿児島県鹿屋市)入所者自治会が4月に発行した機関誌「姶良野」で、同園発祥の文芸同人誌「火山地帯」の歴史を振り返る連載企画が始まった。入所者の同人はいなくなったが、今も続く同誌。寄稿したのは、編集発行人の立石富生さん(75)だ。「療養所発で現存する唯一の文芸同人誌。入所者から話を聴くのが難しくなりつつある中、文芸が彼らの希望だったことに思いをはせてほしい」と語る。
火山地帯は1958年、入所者だった島を中心に創刊。ハンセン病と闘いながら創作を続けた作家の北條民雄(1914~37年)が評価され、文学の世界には差別がなく、社会に認められるきっかけにもなるとして、療養所内での文芸熱は高まっていた。園内外から多い時で購読会員も含めて100人以上が集い、芥川賞候補を輩出したこともあった。
島も〈書くという行為の中にしか、不条理を打破して人間回復をはかる術はないと考えていたし、それが絶望的環境の中で生きる唯一の生き甲斐であった〉(『片居からの解放』)と執筆への思いをつづっている。
立石さんは、島に作品を提出するとよく「何を訴えたいのか」と問われたという。「『訴える』ということが島文学を貫くテーマだった」と考える。
療養所を一つの国に見立てた『奇妙な国』では〈この国では滅亡こそが国家唯一の大理想〉と痛烈な皮肉を込めた。退屈しきった生活に耐えきれず命を絶つ人や、戦時中の食糧難が終わると車やオートバイで遊びほうける人を描き、国の施策によって置かれた“奇妙”な環境に慣れ、批判を忘れていく住人らへの警鐘や悲しみのまなざしがにじむ。