愛知は織田信長、大阪は豊臣秀吉なのに秋田は“菅前総理”…「わが県のナンバー1偉人」にネット騒然も、地元民は納得しきりの裏事情
菅氏の人気はアイドル以上
筆者は秋田県出身であるが、友人、知人に話を聞くと、菅氏が第99代内閣総理大臣に選出された直後、県内の人気は圧倒的だった。国会で行われた首班指名選挙の際は、湯沢市役所でパブリックビューイングが行われた。そして、首相に決まるとお祝いの花火が打ち上げられ、市役所には垂れ幕まで掲げられ、市街地ではちょうちん行列が行われた。 地元紙の「秋田魁新報」は号外を発行。朝刊では一面トップで、「自民総裁に菅氏 本県出身初の首相へ」と大々的に報じた。菅氏がパンケーキ好きというエピソードが報じられると、県内のパンメーカーのたけや製パンが「菅総理大臣ご就任記念 もちもちパンケーキ」なる商品まで発売している。 湯沢駅前の土産物店ではなんと、銅像建立を記念した「たたき揚げかりんとう」などのお菓子や日本酒といった土産物まで売り出された。秋田に限ればアイドル並み、いや、それ以上の人気と言っていいだろう。秋田県出身のアイドルや演歌歌手、プロ野球選手、シンガーソングライターのグッズよりも、菅氏のグッズの方が県を挙げて大々的に発売されたのである。
閉塞感を打破する明るい話題
さて、菅氏は確かに秋田県湯沢市出身なのだが、選挙区は横浜市である。国会議員に当選してからも、秋田県とはほとんど縁がなかった。新潟県出身の田中角栄のように地元のために立派な橋を造った、新幹線誘致に貢献したなどの話も聞かない。決して、秋田県の発展に貢献した政治家というわけではないのに、なぜ、菅氏の人気が絶大なのだろうか。 筆者が以前にデイリー新潮で書いたことのくり返しになるが、秋田県ではここ数年、菅氏の総理大臣就任くらいしか、明るい全国区のニュースがないのである。コロナ騒動が始まって以降、秋田県は自殺率が高いとか、人口減少が著しいとか、若者の県外流出が深刻だといったネガティブな話題に事欠かない。明るいニュースは何があるだろうか。思いつかない。 そんななか、菅氏の総理大臣就任は、秋田県を覆っていた閉塞感を打破する話題だった。“おらが町の総理”は、県民の自己肯定感を高めるには十分すぎる存在だったのである。県民は東京に対する憧れがすこぶる強い。集団就職で上京し、一旗揚げようとするも夢破れて戻ってきた人も少なからずいる。そんな人々は、颯爽と活躍する菅氏に自身を重ね合わせ、励まされたのかもしれない。