【いま行くべき究極のレストラン】評判のスペイン料理店を訪ねて鎌倉へ
今回、この店のことが気になっていたのは、店名の影響もある。アンチョアとはスペイン語だが、英語にすればアンチョビ、つまりシコイワシ(カタクチイワシ)のこと。私はスペイン料理店に行くと必ず、シコイワシの酢漬けを注文し、これが美味しい店はお気に入りになる。わざわざ店名にしたのだから、きっと美味しいに違いないと思ったわけである。 1981年生まれの酒井シェフにとって、スペイン料理との出会いは渋谷「サン・イシドロ」。私も何度か訪れているが、店主のおおつきちひろシェフの作る伝統的なスペイン料理が美味しく、酒井シェフも8年間みっちりと基礎を叩き込まれた。その後、2012年に代々木上原に「アルドアック」を開店したのだが、その後のいきさつをこう語る。 「10年近く営業して、カウンターではなくテーブルのある店をやりたくなった。私は、シェフと話すより、お客様同士が楽しんでいただけるレストランにしたいと思ったんです」 当初は代々木上原近辺を探したが、コロナ禍であったことから海の近くで開業したくなり、神奈川方面を重点的に探し、鎌倉を選んだという。当初から前店の常連で来てくれるのは2割ほどと予想、実際もその程度で、今は近隣の客と観光客が中心で「最近、この店を目指して来てくれるお客様が増えてきた」と笑う。料理はクラシック寄りのスペイン料理だが、鎌倉食材を探しているうちに、ほとんど地産地消の料理になった。 「食材は肉も魚も野菜も想像していた以上にいいですね。でも、東京のようになんでもあるわけじゃないから、東京ではメニューを決めてから食材を仕入れていましたが、いまは食材に合わせてメニューを考えるようにと、仕事のやりかたがまったく変わりました」 中でもこの店の特徴は、店名にあるように魚介類にある。8割ほどの魚を長谷川大樹さんから仕入れているのだ。長谷川さんは神奈川長井漁港を中心に仕事をする仲買人で、彼が神経締めと呼ばれる処理をした魚は、通常の魚とはまったく違う味わいになるという。 「クリアな味で持ちもいい。魚が有名ですが、キノコや山菜も扱っているので、いつしか彼から調達する食材が中心になっています」