アメリカ、韓国、日本、そしてドイツ、フランス…なぜ世界中で「民主主義」は機能不全に陥りだしたのか
■ 「宙づり国会」の悲劇 ドイツと並ぶヨーロッパの屋台骨がフランスである。そのフランスでは、日本や韓国と同様に、政権は国会での少数与党状況に苦闘している。 今年の6月30日(第1回投票)と7月7日(決選投票)に行われたフランス国民議会(定数577)選挙では、RNが第1党となると予測されたが、実際は、1位が左翼連合で182(+33)議席、2位が与党連合で168(-82)議席、3位がRNで143(+55)議席となった。 その結果、どの会派も首相を出すだけの議席数(過半数は289議席)を持っておらず、統治不能な「宙づり国会」になってしまったのである。 今回の国民議会の選挙の結果生まれたのは、保革共存ではなく、左翼、中道、極右の3つの勢力が拮抗する状況である。この3政治勢力は不倶戴天の敵どうしであり、手を組むことはできない。つまり、多数派の形成は不可能なのである。 移民排斥を主張するなど、極右のRNは「自由、平等、博愛」というフランス共和国の理念に反するとして、左翼連合も中道右派の与党連合も拒否する。 また、左翼連合は、「不服従のフランス(LFI)」、社会党、共産党、環境政党から成るが、最大勢力を持ち、ジャン=リュック・メランションに率いられるLFIは、これまでマクロン政権を厳しく批判してきた。特に年金受給年齢の引き上げなどの財政健全化に反対してきたので、マクロン大統領は、彼らと組むことはない。 そこで、マクロンは新首相の任命に苦労することになり、パリ五輪を理由に政治休戦し、2カ月間もの間人選に苦慮した。その間、首相候補として20人以上の名前が出た。そうして、やっと9月5日にミシェル・バルニエを首相に任命したのである。それまでは、7月16日に辞表を提出したアタル首相が暫定首相として職務を行ってきた。 バルニエは、73歳で、第5共和制史上最高齢の首相であり、旧ドゴール派で保守の共和党に属する。共和党は、先の国民議会選挙で、第4位の47議席を獲得している。 バルニエは、シラク大統領時代にジャンピエール・ラファラン内閣で外相(2004年3月31日~2005年3月31日)、サルコジ大統領のときにはフランソワ・フィヨン内閣で農業・漁業内閣相(2007年7月19日~2009年7月23日)を務めた。 2016年6月23日、イギリスは国民投票でEUからの離脱を決定したが、バルニエは、Brexitをめぐる交渉に関してEU側の首席交渉官に就任した。また、2021年1月には、フォン・デア・ライエンEU委員長の特別顧問になり、イギリスとの貿易協力協定の成立に尽力した。 マクロンは、このような経験や人脈の豊富なバルニエに国民議会をまとめることを期待したのである。